「口笛の上手な白雪姫」小川洋子著

公開日: 更新日:

 公衆浴場の脱衣場にあるベビーベッドの脇にはいつも小母さんがいて、赤ん坊を連れてやってきた母親が一人で入浴できるよう赤ん坊の世話をしてくれる。浴場の裏庭にある小母さんが住む小屋は、アーチの扉、赤レンガの煙突、よろい戸付きの窓、三角の屋根と、白雪姫が小人たちと一緒に暮らしていた家のようだった。

 実はこの小母さんにはある秘密があった。赤ん坊をあやすときに口笛を吹くのだが、なぜかその口笛は赤ん坊にしか聞こえないのだった……。

 小川洋子はいつも日常の脇にあるちょっと不思議な世界へ連れて行ってくれる。この表題作を含めて8つの短編が収められている本書もまた、そんな世界の人たちが登場する。世の中の「かわいそうなこと」をリストしてノートに付ける少年、ミュージカル俳優に死んだ息子の面影を託す母親、愛する作家の全作品を暗記する女性、ウサギを巡ってスパイ大作戦を敢行する曽祖父とひ孫……。

 本書の中に「特別な声の持ち主」の作家が出てくるが、まさに小川洋子の「特別な声」が響いてくる滋味豊かな短編集。(幻冬舎 1500円+税)

【連載】ベストセラー早読み

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    都知事選2位の石丸伸二氏に熱狂する若者たちの姿。学ばないなあ、我々は…

  2. 2

    悠仁さまの筑波大付属高での成績は? 進学塾に寄せられた情報を総合すると…

  3. 3

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  4. 4

    竹内涼真“完全復活”の裏に元カノ吉谷彩子の幸せな新婚生活…「ブラックペアン2」でも存在感

  5. 5

    竹内涼真の“元カノ”が本格復帰 2人をつなぐ大物Pの存在が

  1. 6

    「天皇になられる方。誰かが注意しないと…」の声も出る悠仁さまの近況

  2. 7

    二宮和也&山田涼介「身長活かした演技」大好評…その一方で木村拓哉“サバ読み疑惑”再燃

  3. 8

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  4. 9

    小池都知事が3選早々まさかの「失職」危機…元側近・若狭勝弁護士が指摘する“刑事責任”とは

  5. 10

    岩永洋昭の「純烈」脱退は苛烈スケジュールにあり “不仲”ではないと言い切れる