「おもかげ」浅田次郎著

公開日: 更新日:

 定年退職した竹脇正一は、送別会からの帰路、花束を抱えたまま、乗り慣れた地下鉄丸ノ内線の車内で倒れた。病院の集中治療室に運ばれた竹脇は、瀕死で横たわる自分を横目に病院を抜け出し、ファンタスティックな異界へと導かれる。

 毎日新聞連載中から話題を呼んだ長編小説。

 年上の美しいマダムに誘われてディナーをともにしたり、白いサンドレスの女と静かな入り江を歩いたり、ミステリアスな美女と地下鉄に乗り合わせたり。夢ともうつつともつかない世界で、過去と現在を行きつもどりつ。竹脇のつらい出自と、自力で獲得した人生が明らかになっていく。

 竹脇は親を知らない。養護施設で育ち、苦学して商社マンになった。妻にさえ真っ白い戸籍謄本を見せただけで、自分の出自を語ったことがない。

 同じ施設で育った友、4歳で逝った息子、満開の花の下で捨てた恋人、そして自分を捨てた母。地下鉄の親密な闇に身を委ねながら、胸の奥の記憶が蘇り、抑えていた思いがあふれ出す。

 敗戦の混乱期を黙して生き延び、高度成長の時代を支えた名もなき人々の姿が、竹脇に重なる。

 感動の結末は、小説を読む醍醐味満点。

(毎日新聞出版 1500円+税)

【連載】ベストセラー早読み

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    “3悪人”呼ばわりされた佐々木恭子アナは第三者委調査で名誉回復? フジテレビ「新たな爆弾」とは

  2. 2

    フジ調査報告書でカンニング竹山、三浦瑠麗らはメンツ丸潰れ…文春「誤報」キャンペーンに弁明は?

  3. 3

    フジテレビ“元社長候補”B氏が中居正広氏を引退、日枝久氏&港浩一氏を退任に追い込んだ皮肉

  4. 4

    フジテレビ問題でヒアリングを拒否したタレントU氏の行動…局員B氏、中居正広氏と調査報告書に頻出

  5. 5

    やなせたかしさん遺産を巡るナゾと驚きの金銭感覚…今田美桜主演のNHK朝ドラ「あんぱん」で注目

  1. 6

    下半身醜聞ラッシュの最中に山下美夢有が「不可解な国内大会欠場」 …周囲ザワつく噂の真偽

  2. 7

    大阪万博を追いかけるジャーナリストが一刀両断「アホな連中が仕切るからおかしなことになっている」

  3. 8

    今田美桜「あんぱん」に潜む危険な兆候…「花咲舞が黙ってない」の苦い教訓は生かされるか?

  4. 9

    “下半身醜聞”川﨑春花の「復帰戦」にスポンサーはノーサンキュー? 開幕からナゾの4大会連続欠場

  5. 10

    フジテレビ第三者委の調査報告会見で流れガラリ! 中居正広氏は今や「変態でヤバい奴」呼ばわり