北朝鮮問題 やはり日本も時には柔軟になり相手に接近することも必要
「金正恩 狂気と孤独の独裁者のすべて」五味洋治著/文藝春秋/2018年3月
4月末に朝鮮半島の南北軍事境界線上にある板門店の韓国側施設「平和の家」で、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長と韓国の文在寅大統領が首脳会談を行うことになる。 本書の著者である五味洋治氏は、金正恩氏の異母兄で、昨年2月に、マレーシアで暗殺された金正男氏と懇意で、北朝鮮の内情に通暁したジャーナリストだ。本書で、北朝鮮に関する最新情報が手に入る。
五味氏の日本政府の対北朝鮮政策に対する見方が興味深い。
<北朝鮮に対して、日本政府はトランプ政権と歩調を合わせて、最大限の圧力をかけ、政策を変えさせることを基調としている。日本独自の経済制裁も加え、北朝鮮のミサイルに対抗するため、迎撃態勢も強化している。こういった「力での対抗」策を否定するつもりは全くない。脅しに屈しないという姿勢は評価できる。/しかし、かつて日本は北朝鮮に関する情報で、世界をリードしていた。金正恩とその家族に対する情報も豊富だった。それが、2002年に行われた小泉純一郎首相と、金正日の日朝首脳会談につながり、拉致被害者の帰国にもつながったと私は考える。/しかし、残念ながら今は、独自の情報も少なく、ほとんど米国に頼っている状態だ。私は、日本政府の北朝鮮担当者と会うことがあるが、積極的に北朝鮮の内部情報を得ようという意欲を失っている。もし、北朝鮮側の人物と接触し、それが明るみに出れば、批判されると考え萎縮しているのだ。(中略)/金正恩の母親のルーツは日本にある。そういう「資産」を手がかりに、北朝鮮の中枢部とつながりを作り、彼らの動きを知る必要がある。力だけではなく、時には柔軟に出て、相手に接近し交渉を行うことも必要だ>
南北首脳会談が成功すれば、米国も北朝鮮に対して「対話と妥協」に政策を転換すると思う。この機会に日本政府も、平壌に連絡事務所を開設すべきだ。一般論として、脅威は意思と能力によって形成される。北朝鮮は核兵器と日本全域を射程におさめる中距離弾道ミサイルを既に持っている。北朝鮮の脅威を除去するためには、北朝鮮の日本に対する意思を変えさせるしかないと思う。
★★★(選者・佐藤優)