東電を守りたい政府による避難者の切り捨て
東日本大震災から7年が過ぎた。この間、国民の地震や放射能に対する恐怖が薄れるとともに、避難者に向けられる目も哀れみから偏見、そして無関心へと変化している。青木美希著「地図から消される街」(講談社 920円+税)は、震災直後から取材を続けてきた記者による避難者のルポ。帰りたくても帰ることのできない現実と悲劇、そして政治のお粗末さを明らかにしている。
2017年、政府は東京電力福島第1原発事故に伴う避難指示を、福島県浪江町、飯舘村、川俣町で3月31日に、富岡町で4月1日に解除した。4月8日には、安倍首相が浪江町の仮設店舗を訪れ、復興は着実に進んでいるとばかりに笑みを振りまいていた。しかし、現実はどうか。浪江町で避難指示解除された人は1万5191人。帰還した人は、解除から10カ月経ってもわずか2%の311人。しかも、その3分の1が町職員だ。
著者が17年4月に浪江町で行った調査によれば、放射線は住宅の敷地内でも除染基準の4倍以上である1マイクロシーベルト/毎時以上の場所が続出。2階の部屋で0.8マイクロシーベルトという住宅もあったという。家の中は除染対象外であるため、数値が高いケースもある。中心街にあったおよそ60店舗のうち、7割が廃屋状態で2割は更地だ。病院や介護施設も圧倒的に不足している。子育て世帯はもちろん、高齢世帯でも帰るに帰れないのは明白だ。
一方で、政府は次々に避難解除を行い、避難者への支援を打ち切っている。これほどまでに政府が“住民帰還”を急ぐのは、「東電の破綻を防ぐため」であると本書。原子力損害賠償法では「異常に巨大な天変地異」を除き、原子力事業者が賠償責任を負うと定めている。東電にこの免責を使われると、安全対策を怠りながら原発を推進してきた経産省の責任が問われ、賠償問題が国に降りかかる。
そこで、国が東電を守る代わりに、免責は使わないという密約が交わされた。そのために避難者は見捨てられ、支援打ち切りという兵糧攻めに遭い、被災地の実態を知らない国民からは「いつまで避難しているの?」という蔑みの目を向けられている。
ツケを払わされるのはいつも弱者である国民。それが日本の現実だ。