「町田忍の昭和遺産100」町田忍文・写真・絵
日本の元号は現在の令和まで、これまでに248。そのうち「昭和」時代は、正味63年間も続き、歴代最長だった。同時に昭和は、電灯しかともっていなかった日々から、パソコンが登場し情報社会が幕開けするまで、日本人の生活が劇的に変化した時代でもあった。
庶民文化のコレクター、事物事象の記録魔を自任する著者が、そんな元気で右肩上がりの昭和の時代に活躍したモノや建築、風物を紹介する昭和読本。
トップバッターは最近ではめっきり見かけなくなった「実用自転車」だ。
最も活躍していたのは戦前から昭和40年代にかけて、日本が高度経済成長へと突き進み始めた時代だ。お豆腐屋さんをはじめ、牛乳も新聞も、この見るからにごつくて頑丈な自転車で行商や配達に来ていたものだ。
著者の近所の布団屋さんは、昭和23年、親方から独立祝いに実用自転車を買ってもらったという。当時はモノ不足でタイヤがなく、ガスのゴムホースで代用したそうだ。自動車がまだ普及していない時代、自転車は商売になくてはならないものだったのだ。
「宮型霊柩車」も今ではほとんど姿を消してしまった。神社建築のような派手な装飾が施されたあの霊柩車だ。
その発祥は大阪で、昭和初期に各地に広まった。地域別にそれぞれ特色があるそうだが、職人が残っておらず、都内で稼働中の35台が廃車になれば、二度と見ることができなくなるという。
他にも「赤チン」や、ブリキにチープなカラー印刷を施した「ティントイ」などの商品、電気屋の店頭にあった「ビクター犬」や「木製牛乳箱」まで、テーマ別に100の事物を紹介。「昭和のこのカオスの中に令和の時代を活性化させる鍵があるような気がしてならない」と著者はいう。
(天夢人 1980円)