著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「衛艦あおぎり艦長 早乙女碧」時武里帆著

公開日: 更新日:

 知らない世界というのは、ホント、面白い。ここで描かれるのは、海上自衛隊の護衛艦である。船の上で自衛官たちはどう過ごしているのか。それを具体的に、克明に描いていくのである。

 著者は、元海上自衛官だ。つまり著者にとっては熟知した世界なのだ。全編に緊迫する臨場感が漂っているのもそのためだろう。

 出入港時には艦長も操艦するとは知らなかった。この艦長操艦が艦長としての腕の見せどころらしい。本書の主人公は、早乙女碧。一般大学を卒業してから海上自衛隊幹部候補生学校に入学。若き日に同じ自衛官と恋をして結婚、長男を出産した経緯は回想で語られる(長男もいまでは自衛官だ)。現在44歳。護衛艦あおぎりの新艦長として赴任するところから、この物語は始まっていく。

 もちろん、護衛艦の内部の様子を描くだけの小説ではない。出港の直前、1人の乗員が帰艦していないことが判明するのだ。周囲の注目が集まる中で、新艦長・早乙女碧がどういう決断をするのか、それが本書の最大の読みどころ。

 本書のラストでは新たな人物が登場して、こんなキャラで大丈夫かと今後の展開に期待が高まっていく。

 そうなのである。すでに第2巻が発売になっていることから明らかなように、シリーズとなっていくのだ。

「艦長操艦」と重々しく告げるところで本書は幕を閉じるが、さあ、出港である。

(新潮文庫 649円)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    「とんねるず」石橋貴明に“セクハラ”発覚の裏で…相方の木梨憲武からの壮絶“パワハラ”を後輩芸人が暴露

  2. 2

    今思えばゾッとする。僕は下調べせずPL学園に入学し、激しく後悔…寮生活は想像を絶した

  3. 3

    参院選で自民が目論む「石原伸晃外し」…東京選挙区の“目玉候補”に菊川怜、NPO女性代表の名前

  4. 4

    NiziU再始動の最大戦略は「ビジュ変」…大幅バージョンアップの“逆輸入”和製K-POPで韓国ブレークなるか?

  5. 5

    フジテレビ問題「有力な番組出演者」の石橋貴明が実名報道されて「U氏」は伏せたままの不条理

  1. 6

    サザン桑田佳祐の食道がん闘病秘話と今も語り継がれる「いとしのユウコ」伝説

  2. 7

    我が専大松戸の新1年生は「面白い素材」がゴロゴロ、チームの停滞ムードに光明が差した

  3. 8

    逆風フジテレビゆえ小泉今日子「続・続・最後から二番目の恋」に集まる期待…厳しい船出か、3度目のブームか

  4. 9

    新沼謙治さんが語り尽くした「鳩」へのこだわり「夢は広々とした土地で飼って暮らすこと」

  5. 10

    石橋貴明のセクハラ疑惑は「夕やけニャンニャン」時代からの筋金入り!中居正広氏との「フジ類似事案」