北上次郎
著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「天使の傷」(上・下)マイケル・ロボサム著、越前敏弥訳

公開日: 更新日:

 臨床心理士サイラスと、「嘘を見抜く少女」イーヴィを主人公にしたシリーズの第2作だが、前作「天使と嘘」を未読でも大丈夫なので、気にせずに手に取られたい。

 元警視の死体が発見されるところから始まる物語で、最初は自殺と判断されるが、現場の状況からこれは自殺ではないとサイラスが警察に進言する。では、誰が殺したのか。

 元警視は、犯人が獄中ですでに死んでいるにもかかわらず、児童連続誘拐殺害事件を調べていることが判明し、さらに捜査の途中で発見されたメモには、イーヴィの異名「エンジェル・フェイス」の文字が書かれていた。そこでサイラスも調査を開始する。イーヴィ・コーマックはかつて異様な殺人現場で発見された少女で、その後は児童養護施設で暮らしていて、サイラスは会ったことがあるのだ。なぜ彼女の名前がメモにあるのか。

 そのサイラス側の調査の記録と並行して、イーヴィの現在が語られていく。彼女は何者かに狙われていて、誰の力も借りずに逃げまわっている。そのサスペンスがじわじわとこみあげてくる。誰が追っているのか。その背景にあるのは何か。緊迫感はどんどん高まっていく。

 前作で語られなかったイーヴィの過去がある程度明らかになるので、その興味もある。しかし、まだ語られていないこともあるので、それは次作に期待したい。これが面白ければ前作「天使と嘘」もどうぞ。

 (早川書房 各1210円)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    「踊る大捜査線」12年ぶり新作映画に「Dr.コトー診療所」の悲劇再来の予感…《ジャニタレやめて》の声も

    「踊る大捜査線」12年ぶり新作映画に「Dr.コトー診療所」の悲劇再来の予感…《ジャニタレやめて》の声も

  2. 2
    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  3. 3
    一門親方衆が口を揃える大の里の“問題” 「まずは稽古」「そのためにも稽古」「まだまだ足りない稽古」

    一門親方衆が口を揃える大の里の“問題” 「まずは稽古」「そのためにも稽古」「まだまだ足りない稽古」

  4. 4
    阪神岡田監督の気になる進退 来季続投がスジだが…単純にそうはいかない複雑事情

    阪神岡田監督の気になる進退 来季続投がスジだが…単純にそうはいかない複雑事情

  5. 5
    織田裕二がフジテレビと決別の衝撃…「踊る大捜査線」続編に出演せず、柳葉敏郎が単独主演

    織田裕二がフジテレビと決別の衝撃…「踊る大捜査線」続編に出演せず、柳葉敏郎が単独主演

  1. 6
    大谷への理不尽な「ボール球」ストライク判定は差別ゆえ…米国人の根底に“猛烈な敵愾心”

    大谷への理不尽な「ボール球」ストライク判定は差別ゆえ…米国人の根底に“猛烈な敵愾心”

  2. 7
    巨人・岡本和真「急失速の真犯人」…19打席ぶり安打もトンネル脱出の気配いまだ見えず

    巨人・岡本和真「急失速の真犯人」…19打席ぶり安打もトンネル脱出の気配いまだ見えず

  3. 8
    新関脇・大の里の「大関昇進の壁」を親方衆が懸念…看過できない“練習態度”の評判

    新関脇・大の里の「大関昇進の壁」を親方衆が懸念…看過できない“練習態度”の評判

  4. 9
    高橋一生「ブラック・ジャック」高視聴率も続編困難か…永尾柚乃“完璧ピノコ”再現に年齢の壁

    高橋一生「ブラック・ジャック」高視聴率も続編困難か…永尾柚乃“完璧ピノコ”再現に年齢の壁

  5. 10
    阪神岡田監督の焦りを盟友・掛布雅之氏がズバリ指摘…状態上がらぬ佐藤輝、大山、ゲラを呼び戻し

    阪神岡田監督の焦りを盟友・掛布雅之氏がズバリ指摘…状態上がらぬ佐藤輝、大山、ゲラを呼び戻し