「どうにもとまらない歌謡曲」舌津智之著
言語に関する文化の中でも、広く深い浸透力を持つ歌謡曲は「戦後の日本における最強の思想」だと著者はいう。聴く人の頭脳にサブリミナルに蓄積される言語情報がその人の価値観に大きな影響を与えるからだ。
本書はヒット曲の歌詞に刻まれた集団的(無)意識の変容を読み解き、70年代フェミニズムの輪郭を浮かび上がらせた音楽&ジェンダー論。
「瀬戸の花嫁」や「てんとう虫のサンバ」などの結婚賛歌を取り上げ、対する「神田川」などの同棲ソングは必ず過去形で歌われ、「絶体絶命」などの婚外恋愛=不倫ソングは必ず破綻に至ることを指摘。結婚に関する当時の強迫観念の強さを明らかにするなど、よく知るヒット曲の歌詞から、日本社会の深層を暴いていく目からウロコ本。
(筑摩書房 902円)