経済安全保障に含まれない「食料」
「世界で最初に飢えるのは日本」鈴木宣弘著
♪ニッポンの未来は世界がうらやむ……なんてモー娘。が歌ってたのは既に24年前。いまやニッポンのミライは?
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食料自給率は37%の低率。おまけに種子と肥料の海外依存度もきわめて高率のため、それを算入すると自給率はなんと「10%に届かない」と、いきなり巻頭からショッキングな指摘をする。
著者は農水省の官僚から学界に転じた東大の農学系大学院教授。食料自給率の低さについて長年警告を発してきた専門家だ。
岸田政権は「経済安全保障」をうたうが、そこに食料は含まれていない。食料そのものに加えて生産資材の高騰、中国などと比べた「買い負け」が顕著で、国内農業生産の継続性も不安視されている。にもかかわらず、政権は防衛費増額にばかり目を奪われる始末。「いまの政府には危機認識力が欠如していると言わざるを得ない」と直言する。
ウクライナの戦争で小麦などの食料供給が不安定化しているのは周知。世界的に食料危機が発生し、食料価格が高騰すれば「高すぎて買えない」という以上に、食料輸出国が輸出をストップする事態が考えられるのだ。
グローバル化が急激に始まった90年代、既にはじけたバブルの余韻に浸り切っていた惰弱なるニッポン。「国際物流停止で餓死者が日本に集中」という朝日新聞の衝撃的な報道は絵空事ではないのだ。
(講談社 990円)
「グローバリズム植民地ニッポン」藤井聡著
日本が低成長国であるのはもはや自明の話。それを「滅びの途上」と断定するのが本書。
著者は公共政策を専門とする京大教授にして保守派の論客だ。矛先が向くのは政府が金を出し惜しみする「緊縮主義」と公共事業を減らして民活にゆだねる「新自由主義」。
だが、「より深い原因」として著者が糾弾するのが「『サヨク』と呼ばれる人々が好む、もっと軽薄な平和主義」だ。
さらに、環境保護を唱える人々は「低成長」路線で、これも日本衰退の元凶とする。新自由主義はレーガンとサッチャーにはじまる保守派の主流路線だが、本書では左派に加えて米中がともに敵対視される。
「アメリカの属国」に成り下がった日本、中国を「宗主国」とするようになった日本。そう嘆く著者の警世論だ。
(ワニブックス 968円)
「世界食料危機」阮蔚著
日本の食料供給の不安定さは既に指摘されるところだが、世界はどうなのか。その全体構図の中での日本の位置を知るのに本書は適している。
たとえば、日本でも若い世代は肉食嗜好が強いが、世界的に見ると牛肉消費ではアメリカとブラジルが断然高く、日本はブラジルの半分。豚肉は中国のイメージがあるが、実はスペイン、ポーランド、ハンガリー、オーストリア、ドイツ、ポルトガルなどがこぞって中国より上位にある。
ハムや生ハムなどの加工豚肉製品の需要が大きいのだ。しかも食肉の消費拡大が穀物飼料の需要を増やし、結果として食料危機につながるという。
日本はどうか。たとえば畜産物の「国産率」は64%。しかし、輸入飼料分を差し引いた自給率になると16%に激減するのだ。日本の場合、飼料原料の自給率が「極端に低い」と指摘する。
著者は中国出身で90年代に日本留学。現在は農林中金のアナリストだ。
(日本経済新聞出版 990円)