「植物少女」朝比奈秋著

公開日: 更新日:

 霊安室で母の棺を前に、葬儀屋が「生前から穏やかでいらっしゃったんでしょうね」と言ったとき、すべての人間が黙ってしまった。

 美桜(みお)は一瞬、戸惑った後、「誰も生前の母をよく知らなくて」と答えた。26年間も母に寄り添った美桜もナースの吉田さんも、母がどういう人間だったのか知らなかった。

 美桜は幼いころ、祖母に抱かれて、入院している母に面会に行った。母の膝に乗せられて乳首を吸うと、不思議なことに乳が出た。小学生の頃、食事介助の佐藤さんが母のつやつやした髪をなでながら「眠れる美女やね」と言うと、美桜は「ママな、植物人間やねんで」と言った。

 植物状態の母を通して「生」を見つめる女性の物語。 (朝日新聞出版 1760円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    日本相撲協会・八角理事長に聞く 貴景勝はなぜ横綱になれない? 貴乃花の元弟子だから?

  2. 2

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  3. 3

    キムタクが迫られる「主役の座」からの退場…盟友からも“二番手”降格を提言される異例の事態

  4. 4

    神田正輝「旅サラダ」“有終の美”前に拒絶態度は変わらず…沙也加さん元カレ舞台中止で復帰は絶望的

  5. 5

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  1. 6

    「朝だ!生です旅サラダ」司会27年半ついに降板…神田正輝が描く引退後の“終活”プラン

  2. 7

    巨人・阿部監督1年目V目前で唇かむ原前監督…自身は事実上クビで「おいしいとこ取り」された憤まん

  3. 8

    『SHOGUN 将軍』快挙に木村拓哉の悔恨…『未来への10カウント』出演で大チャンスを棒に

  4. 9

    「SHOGUN 将軍」エミー賞18冠で真田広之が渡辺謙をついに凌駕 「英語力」「謙虚さ」が生んだ逆転劇

  5. 10

    大谷に懸念される「エポックメーキングの反動」…イチロー、カブレラもポストシーズンで苦しんだ