「黒板アート甲子園作品集2019-2022」日学株式会社総監修
「黒板アート甲子園作品集2019-2022」日学株式会社総監修
普段は授業の板書に用いられる教室の黒板をキャンバスに見立て、チョークを駆使して絵を描く「黒板アート」。全国の高校生(のちに中学生部門も設置)が制作したそんな黒板アートを競い合う「黒板アート甲子園」が毎年行われていることをご存じだろうか。これまでの8大会で、応募点数は1200点以上、参加生徒数は延べ8000人以上という。
本書は、2019年から昨年までの同大会の受賞作品を紹介するアートブック。
高校生が描く黒板アートなら、テーマはやはり「青春」なのではという思い込みは、1ページ目から覆される。
19年の第4回大会で最優秀賞に輝いた福島県立会津学鳳高等学校の作品のタイトルは、なんと「おせち料理」。黒板全体を重箱に見立て、「寿」の文字と紅白の飾り花で彩られた尾頭付きの大きなタイを真ん中に、おせち料理の一品一品が丁寧に、そして色鮮やかに描かれている。
驚くのは料理の一つ一つが立体的で、その質感までもが表現されていることだ。
「美味しさ感」にもこだわったという制作メンバーの「描いているとき、お腹が空いてきて困りました」とコメントも楽しい。
同大会で「日学特別賞」を受賞した熊本県立大津高等学校の作品は黒板いっぱいに描かれた「蛇」、同じく特別賞の神奈川県立川崎北高等学校の「春」は咲き誇る桜と、それを見つめる巨大な瞳が描かれる。
両作とも蛇のうろこの冷たい質感や、瞳の潤いなど、学生時代にお世話になったあのチョークで描いているとは信じられないほどの描写力だ。
もちろん、翌年に迫った東京五輪(実際には延期になったが)を題材に1964年大会と合わせて描く誠恵高等学校の「トウキョウコネクト」(日学特別賞)のようにポップなタッチの作品や、新入生を歓迎する「はじめよう」(九州産業大学付属九州産業高等学校=エリア賞)など、高校生らしい作品もある。
一方で、自分に対する罵詈雑言が描かれた黒板を見つけた巨大なタコが黒板を蹴破って飛び出してくる埼玉県立大宮光陵高等学校の「蛸の憤怒」(優秀賞)など物語性がある奇想天外な作品もある。
各作品のクオリティーの高さに感嘆するとともに、作品の周囲に写り込む丸時計や校内放送用のスピーカーに、そこが教室であることを改めて思い出され、自らの高校時代が重なり、なんとも懐かしい。
いずれは消さなければならない、はかない命の黒板アート。
そのひとときの輝きは、たった一度しかない高校時代の青春の輝きと呼応する。
ゆえに、その貴重な時間をコロナ禍で過ごさなければならなかった21年の作品には、「心は自粛しない」をテーマにマスクをしながらも奔放に絵を描く自らの姿を描いた作品(「春は短し描けよ乙女」好文学園女子高等学校=第6回優秀賞)などもあり、そんな高校生たちの強さと柔軟さ、そしてもちろんアート力にエールを送りたい。
(日東書院 4180円)