「書体のよこがお」今市達也、内田明ほか著
「書体のよこがお」今市達也、内田明ほか著
近年は目にする文字情報の多くがデジタルフォントだが、1980年代末の創成期、日本語デジタルフォントはわずか2種類しかなかった。それが、今では主要メーカーの利用書体数の合計だけで優に3000種は超える。
本書は、かつて主流だった金属活字や写真植字から、現代のデジタルフォントまで、日本語活字書体の150年におよぶ歴史を振り返るビジュアルブック。
19世紀半ば、中国での布教を目指した欧米の宣教団の主導で明朝体漢字活字が開発され、明治2年にはその技術が日本にも伝わった。明治10年ごろまでに、その技術の伝承を受けた3社が自社で明朝活字を製造販売するようになったという。
このうち、東京築地活版製造所が作り上げた「築地体」は、後世に受け継がれる名作となり、現在も新たな書体のベースとなったり、インスパイアされた書体が生まれ続けるなど、まさに古典中の古典のような存在だという。
その築地体よりも早く漢字・ひらがな・カタカナが揃った「ゴヂック」活字セットを完成させたのが、現在まで続く大手印刷会社・大日本印刷の前身のひとつ「秀英舎」だ。東京築地活版製造所と並び立つ秀英舎の活字書体は、築地体と対をなすことから「秀英体」と呼ばれる。
以降、かつて2位に大きな差をつけて国内シェア1位を誇り、現在もその改良版がスマホやタブレットに用いられている「岩田明朝体」(1951年)や、江戸文字を最初に書体化したモリサワの「勘亭流」(1974年)、江戸時代の禅僧・良寛の墨跡をモチーフにデザインされた「良寛」(1984年)など、時代を彩る書体約150種を解説。
それぞれが生まれた時代背景や、発想の源にまで踏み込んだ、デザインに携わる人にお薦め本。
(グラフィック社 2750円)