「世界の移民歴史図鑑」フィリップ・パーカー編集 木村凌二監修、小林朋則訳
「世界の移民歴史図鑑」フィリップ・パーカー編集 木村凌二監修、小林朋則訳
シリアやミャンマー、そしてウクライナやスーダンなど、世界の各地で紛争や政変がおきるたびに、人々はよりよい環境を求めて移動を始める。そんなニュースに忸怩たる思いも湧くが、新天地を求めての移動は、DNAに刻まれた人類の本能といっても過言ではない。
われわれの祖先は、10万~20万年前、故郷のアフリカを出て、北東に向かい現代のイスラエルからシリアにたどりつく。しかし、この最初の第1波の移動者たちは絶滅。
そして、紀元前5万5000年ごろ、第2波がアフリカを出て移動を開始し、これがきっかけに人類は生息可能な地域のほぼすべてに拡散していった。
このアフリカ出発と拡散から現代まで、人類の移動の歴史を、豊富な図版と移動ルートを示す地図とともに解説した豪華ビジュアル図鑑。
アフリカを出た人類は、やがてそれまでの狩猟採集の生活から農耕にライフスタイルが変化。
かつて研究者たちは、農耕は人の移動ではなく農耕という考え方の普及によって広まったとし、狩猟採集民がこの新たな生活手段を採用したに過ぎないと考えていた。
しかしDNAの分析によって、アジア南西部やロシアの南部高原を出発点とする大規模な人口移動があったことが明らかになっているという。
紀元前6000年以降、アジア南西部から家畜を連れて移動してきた農耕民は、狩猟生活を送っていた中石器時代の人々を駆逐・吸収しながら、バルカン半島からイギリスまでの各地に新たな村を築いていったそうだ。
以後、中世におけるユダヤ人の移動や、16世紀にはじまる大西洋奴隷貿易による強制移動など。6つの時代、100の移動・移民をテーマに人類史を振り返る。
歴史への理解が深まる格好のテキストだ。
(原書房 6380円)