「ニッポンのアンティークしおり」豊嶋利雄著
「ニッポンのアンティークしおり」豊嶋利雄著
経費削減で本からスピン(しおりひも)が姿を消し、最近ではしおりも挟まれていない場合もある。
現在では、それほどまでに扱いが軽くなってしまった「しおり」だが、かつて欧米では企業が宣伝媒体として盛んに用いたという。日本でも明治20年ごろから宣伝に使われるようになり、昭和初期にかけ、さまざまな商品の宣伝に利用された。
本書は、そんな国内外のしおり1万枚以上を収集した著者のコレクションを紹介しながら、その知られざる魅力を伝えるガイドブック。
まずは、今は見かけない「小児解毒散」(湿疹薬)や「パラヌトリン」(かっけの新薬)などの薬品から、チョコやキャラメルなどの菓子、文具やスポーツ用品、スクーターや当時は最先端の家電だった洗濯機など、さまざまな製品の宣伝しおりを紹介。
ほかにも戦時下の貯蓄奨励運動や国産品の使用を呼びかけるプロパガンダや、交通安全や結核予防を啓蒙するキャンペーン、新作映画公開の宣伝、そして学生が寮祭の記念に作ったユニークなしおりまで、ジャンル別に466枚を収録。
長く手元に置いてもらい、より宣伝効果が得られるよう、裏面にカレンダーを印刷するなどの工夫も凝らされた。ポスターや絵はがきとは異なり、裏面も利用でき、数多くつくることができ、消費者の手元に届くしおりは企業にとって最適の広告アイテムだったようだ。
中原淳一ら当時の人気画家を起用したしおりは、少女たちを中心に人気を博し、近年は「手のひらに乗る」アートとして、レトロでありながらモダンなデザインが再評価されているという。
引き出しや本の間に閉じ込められ、長い眠りから蘇ったしおりは、当時の風俗や世相、流行など貴重な情報をもたらしてくれる貴重な歴史遺産だ。
(グラフィック社 2200円)