古書 明日(下北沢)江戸・東京本から詩歌まで「そのときに取れたいいものを並べています」
下北沢駅の周りは工事だらけ。妙に迷ってしまい、途中、飲食店と美容院で「このへんに古本屋さんは?」と聞いたら、するすると教えてくれた。
「開業7年目ですが、30~40年前からあった元々の古本屋が認知されていて、ありがたいですね」と、店主の田中大士さん(49)。
ご自身は、ネットと催事で販売する古書店を25年間やっていた。古書組合の市場で知り合った年配の同業者が店を畳むので、借り手を探していると聞き、「よろしければ、跡をやらせていただけませんか」。本棚などをそのまま譲り受け、店子となったのだそう。
6坪の店内に約6000冊。右手入り口近くに、“江戸・東京本”がかたまっており、さっそく川本三郎著「私の東京町歩き」と、田辺茂一著「茂一 ひとり歩き」を握る。と、「近年は、江戸から東京、昭和から平成に人気が移ってきてますね」と田中さん。ほー。
写真、民芸、演劇など美術の分野が得意
文庫本は「鉄板」だという講談社学術文庫、岩波文庫、ちくま文庫が、色目も奇麗にたっぷり並んでいる。そのうちちくま文庫は、表紙が「黄色は日本人著者、オレンジは外国人著者、白は学術系と色分けされている」って、わー、初耳でした。で、お得意分野は?
「通販のスタートが美術専門だったので」と聞いてから、その目で見ると、アート系洋書がどーんと並んだ棚が。おっしゃる「美術」の分野は、写真、工芸、民芸、映画、演劇などにも広がっているもよう。「ぼくのニューヨーク案内」など植草甚一の晶文社刊シリーズが揃っているかと思えば、「移動」「ハイキング」など、あの別役実の戯曲本などがたっぷり。土地柄、演劇青年たちが来るんだろうなー。いやいや、詩歌愛好家にも愛されていそう。思潮社の現代詩文庫ずらり。
「ほぼ100%、古書市場で仕入れているので、魚屋ではないですが、そのときに取れたいいものを並べてる感じですね」との田中さんの何げない言葉がかっこいい。とどめは、「文庫以外、ブックオフに並ぶ本は置かない主義」。
◆世田谷区北沢3-21-1 1F/小田急線・京王井の頭線下北沢駅から徒歩5分/℡03・6416・8869/12~20時、月曜休み
ウチらしい本
「あそびの木箱」北海道立近代美術館監修 秋岡芳夫著
「著者の秋岡芳夫さんは、民芸とはちょっと違う、美術家グループ『モノ派』。工業デザイナーでしたが、手仕事に着目し、作り手と使い手を結ぶデザイン運動を展開した人です。この本は、1982年刊。北海道立近代美術館での展覧会をもとに本にしたものじゃないかな。『くらしの箱』『あそびの箱』の2章立てで、写真もふんだんに入っています」
(淡交社刊 4000円<売値>)