井上理津子
著者のコラム一覧
井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

あぷりこっとつりー(吉祥寺)特長は科学系絵本と洋書の古本という絵本ショップ

公開日: 更新日:

 ショップもカフェも個人経営の店ばかりだーと心躍りながら吉祥寺・中道通りを歩き、到着。絵本の店だから、女性の経営? と思ったのはジェンダーバイアスだと思い知る。店主は63歳の男性、藤原優さん。

「ええっと、アプリコットって杏ですか?」

「そうです。私、原宿で育ったんですが家の裏庭に杏の木があり、そこが子供心にワンダーランドへの入り口だったんです」

 まず、そんなやりとりをしたが、やはり聞きたい。いつから、なぜ、この店を?

「医療系の研究職でした。50歳くらいのとき、サラリーマンはゆくゆく居場所がなくなると思ったのがきっかけです。子供たちが幼かった頃、絵本を読み聞かせたりしたら、『きゃっきゃっ』と喜んでくれたなーと思い出しましてね」

 相続した原宿の実家を活用し、土日だけ開ける絵本ショップを設けたのが54歳のとき。60歳で退職した2020年、ここに移転してきたそう。

「しぜん」シリーズなど大人も読みたくなるものばかり

 48平方メートルの店内に1000冊。一部が「定価の約半額」の古本。それ以外は新刊本。季節柄、ラックにクリスマスの絵本が並ぶ。どこへ手を伸ばそう、と思っていると「ウチの特長は科学系絵本と洋書の古本が多いことです」と藤原さん。

 福音館書店の「かがくのとも傑作集」やフレーベル館の「しぜん」シリーズ。それに「富士山大ばくはつ」「トマトのひみつ」「せいめいのれきし」……。勉強になりそう。大人も読みたくなるタイプばかりだ、と手に取りパラパラ。

「化学書が専門の出版社、化学同人がなぜか絵本を出していまして」と藤原さん。色とりどりの海藻を押し葉にして海の世界を描いた「海のものがたり」に感動するわ、「これは写真集ですが」と見せてくださった「オオカミ」(ホビージャパン)の迫力に圧倒されるわ。

 買ったのは、「私でも読める英語の本を」と選んでもらった「The Giving Tree」。簡素な表現とシンプルな線描画。村上春樹翻訳本では「おおきな木」になっているとか。ひとりの少年の小さい頃からいつも近くにあった木の話とのこと。よーし、読もう!

◆武蔵野市吉祥寺本町4-6-2 秋元ビル101/JR中央線・吉祥寺駅から徒歩8分/℡0422・27・6407/11~18時(金曜13~18時)、月・火曜休み

ウチらしい本

NAISSANCE 出産を巡る切り絵・しかけ図鑑」エレーヌ・ドゥルヴェール絵ジャン=クロード・ドゥルヴェール文 弓井茉那ほか訳、林聡監修

「Renaissance(ルネサンス)から“Re”を取ったタイトル『NAISSANCE』は、フランス語で誕生の意味。赤ちゃんが生まれるってどういうこと? 妊娠中の体の状態は? 意外に難しいですよね。この本は、精子と卵子の出合いから赤ちゃんが誕生する直後までの妊娠と出産に関する情報を網羅した、美しいアートブック。ページをめくると、女性のお腹の部分が何枚にもわたって開き、まるでレースのように繊細で美しい切り絵が出てきて、驚かされます」

(化学同人 3850円)

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