「ゴキブリ・マイウェイ」大崎遥花著

公開日: 更新日:

「ゴキブリ・マイウェイ」大崎遥花著

 ゴキブリ、と聞いただけで身構えてしまう人もいるかもしれない。しかし、全世界には約4500種のゴキブリがいて、そのうちクロゴキブリなど害虫と呼ばれるのは1%未満。そのほとんどが人間の生活圏に現れることなく森林や草原でひっそり暮らしている。

 著者が研究しているのはクチキゴキブリ。朽木の中にすみ、卵胎生といって、母親の体内で孵化して子が直接母親のお腹の中から出てくるという珍しい繁殖形態をとる。またメスとオスが一生浮気をせずに同じ個体と添い遂げ、雌雄ともに子育てを行うという極めてまれな生き物だ。さらに驚くのは、成虫の雌雄が互いに相手の翅を食い合うという奇妙な行動をとる。なぜか? これこそが著者の研究テーマであり、本書は世界で唯一のクチキゴキブリ研究者が書いた、唯一のクチキゴキブリ研究本だ。

 著者は幼い頃から大の動物好きで、とりわけ昆虫が好きだった。幼稚園のときにテレビで女性の昆虫研究者を見て「この人みたいになる」と言ったそうだ。その宣言通り、九州大学理学部生物学科に入学、石垣島でタイワンクチキゴキブリと邂逅したことが著者の研究者人生を決める。とはいえ、この虫を専門にしている研究者は皆無。当然先行研究もなく、五里霧中で飼育方法や実験装置を独自に案出していかざるをえない。本書がユニークなのは、そうした試行錯誤の体験だけでなく、研究者として自立していく中で必須の論文の書き方や投稿先の雑誌選び、査読から受理までの過程、学会でのコミュニケーションの仕方など、若手研究者の生態が細かく書かれていること。

 肝心のクチキゴキブリの雌雄がなぜ通常の生存戦略とは正反対と思える翅の食い合いをするのかは、現在のところまだ仮説の段階のようだが、著者の無類の好奇心と虫好きが、近い将来、大きな成果を見せるであろうことを期待したい。 〈狸〉

(山と溪谷社 1760円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 2

    米挑戦表明の日本ハム上沢直之がやらかした「痛恨過ぎる悪手」…メジャースカウトが指摘

  3. 3

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  4. 4

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 5

    巨人「FA3人取り」の痛すぎる人的代償…小林誠司はプロテクト漏れ濃厚、秋広優人は当落線上か

  1. 6

    斎藤元彦氏がまさかの“出戻り”知事復帰…兵庫県職員は「さらなるモンスター化」に戦々恐々

  2. 7

    「結婚願望」語りは予防線?それとも…Snow Man目黒蓮ファンがざわつく「犬」と「1年後」

  3. 8

    石破首相「集合写真」欠席に続き会議でも非礼…スマホいじり、座ったまま他国首脳と挨拶…《相手もカチンとくるで》とSNS

  4. 9

    W杯本番で「背番号10」を着ける森保J戦士は誰?久保建英、堂安律、南野拓実らで競争激化必至

  5. 10

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動