「死因の人類史」アンドリュー・ドイグ著 秋山勝訳
「死因の人類史」アンドリュー・ドイグ著 秋山勝訳
1999~2019年の世界の主要死因は、虚血性心疾患、脳卒中、慢性閉塞性肺疾患、下気道感染症などが上位を占めていたが、新型コロナウイルスの蔓延により、21年には新型コロナウイルスが第2位に躍り出た。日本でもその昔、結核は長らく死因の1位を占めていたが、現在は30位以下まで下がっている。このように死因は医学の進展や環境によって大きく変動するが、人類史という長いスパンで死因を捉えたのが本書だ。
現在、世界保健機関が集計している死因統計の起源は、16世紀末、ペストが猛威を振るった英国のロンドンで作成された「死亡表」にまで遡るという。当初は市当局がペストの実態を把握するためのものだったが、やがて約60の死因項目に分類され、生命保険料の算出に利用されるようになる。当時圧倒的に多かったのはペスト、天然痘などの感染症で、6世紀半ばにヨーロッパを襲ったペストは5000万人もの命を奪ったとみられている。本書は、ペスト、天然痘、コレラなどの感染症との闘いの様子を豊富なエピソードとともに描いていく。
感染を引き起こすウイルスや細菌の解明と同時に、飲み水や汚水の不衛生な環境を改善する公衆衛生的な考えの普及により、19世紀後半以降、平均寿命は一気に延びていく。感染症と同じく長く死因の主要因であった飢餓は、21世紀に入って世界でもまれになり、被害も軽減されている。近年では逆に肥満が深刻な問題となり、喫煙、アルコール、運動不足なども死因の要因となっていることが指摘されている。
そのほか、認知症、遺伝病などにも話題が及び、死と病をめぐる社会史・文化史の壮大なパノラマが展開される。今後も新たな感染症の出現は避けられないだろうし、戦争、殺人、自殺という大きな死因にはいまだ解決の糸口が見えない。未来の「死因の人類史」は、どう描かれるのだろうか。 〈狸〉
(草思社 4180円)