著者のコラム一覧
井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

緑のゆび(吉祥寺)1000冊が並ぶ8.5坪の店内はさながら小さな絵本ミュージアム

公開日: 更新日:

「“絵本バー”のような、本を通して人と人が出会うスペースをつくりたかったんです」と、店主の吉井康文さんが言う。物件を探し始めて、すぐに見つかったのが、近年とみに人気の吉祥寺・中道通りの路面店。飲食NG物件だったため、2022年1月、「仲間3人と一緒に、見切り発車した」という絵本と児童書の専門店だ。

 吉井さんの前職は、絵本の出版社「こぐま社」社長。何げなくおっしゃった「絵本には人生の大切なことが全部詰まっています」との言葉をメモメモ。8.5坪の店内に1000冊が並ぶ。面陳列が多く、さながら小さな絵本ミュージアム。

 まず目がいったのは、「あおくんときいろちゃん」と「ぐりとぐら」のシリーズ。懐かしいなー、大昔の我が子育て時代。と心の中でつぶやく。と、「8割がたがロングセラー本です」と吉井さん。安野光雅の「旅の絵本」シリーズ、グリム童話「こびとのくつや」と目が合ったりも。おっと、紙芝居舞台を発見。「1万1500円+税」と表記。これも売り物ですね?

「はい。おじいちゃん・おばあちゃんがよく買っていかれます」と。ほほ~。でも、紙芝居って存外難しいだろうな、と思いきや「講座もやってます」。ナレーターを講師に「紙芝居の魅力と楽しい演じ方のコツ」なる講座。店での参加者10人ほど、オンライン受講者がいつも30人ほどいるとか。

長さ2.8メートルの絵本!?

 紙芝居舞台の近くに、蛇腹状の絵が立てかけられている。これは?

「“絵巻じたて”の絵本です。長さ2.8メートルの」ですって。馬場のぼるの「11ぴきのねこマラソン大会」あり、加古里子の「かわ」あり。すてきすぎる!

 戦前や戦後すぐの時代に欧米から上陸し、以来ロングセラーの絵本の数々を見せてもらって、またまた歓声をあげ……。最後に「これ、まもなくなんです」と吉井さんが手にしたのが「いるよいるよ」という絵本の校正刷り。アクリル画を得意とする、くまのひでのぶさんの作。この店「緑のゆび」が、新たに出版事業をスタートさせる第1弾だそう。店に並ぶ7月20日ごろに再訪しなくちゃ。

◆武蔵野市吉祥寺本町4-1-3/℡0422-88-1007/JR中央線・京王井の頭線吉祥寺駅から徒歩7分/11~18時/月曜休

ウチのベストセラー本

「愛蔵版みどりのゆび」モーリス・ドリュオン作、ジャクリーヌ・デュエーム絵、安東次男訳

「フランスで『星の王子さま』の次に有名な児童文学で、店名の由来になった本です。主人公のチト少年は、触れるもの全てが美しい草花になる不思議な親指を持っていて、武器を花にし、戦争をやめさせる。反戦の児童文学です。岩波少年文庫版(825円)と並べて置いていますが、カラーの絵が付き、函入りのこの愛蔵版の方がたくさん売れる。開店以来、両方合わせて1000冊以上売れました」

(岩波書店 2860円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 2

    米挑戦表明の日本ハム上沢直之がやらかした「痛恨過ぎる悪手」…メジャースカウトが指摘

  3. 3

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  4. 4

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 5

    巨人「FA3人取り」の痛すぎる人的代償…小林誠司はプロテクト漏れ濃厚、秋広優人は当落線上か

  1. 6

    斎藤元彦氏がまさかの“出戻り”知事復帰…兵庫県職員は「さらなるモンスター化」に戦々恐々

  2. 7

    「結婚願望」語りは予防線?それとも…Snow Man目黒蓮ファンがざわつく「犬」と「1年後」

  3. 8

    石破首相「集合写真」欠席に続き会議でも非礼…スマホいじり、座ったまま他国首脳と挨拶…《相手もカチンとくるで》とSNS

  4. 9

    W杯本番で「背番号10」を着ける森保J戦士は誰?久保建英、堂安律、南野拓実らで競争激化必至

  5. 10

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動