ヤンヤン(高円寺)屋根裏部屋のレトロ空間に文系全般800冊
えっ? マジ? 入り口でびっくり。「急な階段」とは聞いてきたけど、まるでハシゴじゃない。よし、頑張ろう。えっちらおっちら上っていくと、屋根裏部屋風のレトロ空間が広がり、本が並んでいた。
「もうひとつの入り口には、1階から3階にまっすぐ上がる階段がついていて、3階はほかの方がやってるギャラリーなんです。築年不明のこの不思議な建物と出会いがあって」と、28歳の若き店主・城李門さん。「芸術も文学も社会学も」包括する学部に在籍していた大学時代、世をあげて“実学が大事”風潮に。「役に立たない文系と言われるけど、こんなことできる」とばかり、その後、映評あり、詩ありの文芸誌を作ったのが、昨年11月にこの店を開く伏線だったかもと。
「新刊8割、古本2割です」
まず平台を見ると、白が基調の本が多い中、カラフルな表紙のチョ・ナムジュ「耳をすませば」と、石垣りん「詩の中の風景」に目がいく。あと、「カフカの日記」「ファミリーヒストリー 家族史の調べ方・まとめ方」「死ぬまで生きる日記」などが。
「時代を問わず、この国で生きてきた人の生活史を残したいんです」
と城さん。その言葉と重なって、150人もの市井の人たちの語りが収録された岸政彦編「大阪の生活史」があり、「『東京の生活史』『沖縄の生活史』に次ぐ3冊目。すごい仕事ですよね」。
日記や書簡集、生活史など思わず手が出る選書
日記を中心に据え、エッセーや書簡集、さらに「せっかく来てくれた人すべてに楽しんでいただきたくて」。選書はまさに文系全般に広がりを見せているもよう。私は小沢昭一、大竹昭子、W・G・ゼーバルト、三浦哲哉に手を出し、しばし。
城さんが自主出版本の鹿野桃香著「地震日記」を見せてくれた。鹿野さんは能登半島地震の被災者で、発生からの5日間を克明につづった日記だそう。鹿野さんが4月に偶然この店に来て、話したのが、本屋で流通する本になるきっかけだとは、城さん貢献してる!
「避難所での暮らしは大変だけど、社会学でいう“災害ユートピア”であったり」が俯瞰されていると聞き、すぐさま「買います」と私。そんなこんなのすごい本ばかり、800冊が静かに待つ本屋さんである。
◆杉並区高円寺南3-44-18 藤本方/JR中央線・総武線高円寺駅から徒歩5分/13~20時、火・水曜休み
わたしの推し本
「ためさるる日 井上正子日記1918-1922」井上迅編、法蔵館 3080円
「スペイン風邪がはやり、米騒動が起きた大正期、女学生は日々をどうつづっていたのか。井上正子さんは京都のお寺の娘さんで、当時、女学生でした。教科書に載っている歴史的史実と違う側面も証言されていて、正子さんにとって、書くことは生きることだったのかもしれません。彼女の弟の孫に当たる編者が、文字を読みやすく改め、時代背景等の注釈をつけて、この本に。ぜひ手に取ってください」