七月堂古書部(豪徳寺)装丁があまりにもすてきな詩集がずらり「うっかり入ってきて、詩集を買ってほしいんです」
住宅街の中に、“本のある風景”が忽然と現れる。外のローテーブルに絵本や手品の本、ブラタモリの本も。2段の本棚には「ロビンソン・クルーソー」も「フランダースの犬」も見つけた。しゃがみ込んで、大型本を読む青年がいて、その向こうのガラス窓に、白い文字で5行。
〈いつも うつむきかげんのMさんは 真剣に 世界の救済を願っているので どこかオロオロしている〉と。
「この間、西尾勝彦さんに書いてもらった、詩の一節です」
「分かるような、分からないような。ステキですね。西尾勝彦さんって?」
「来年の中学の教科書にも載る、奈良にお住まいの詩人さんですよ」
と、社長の後藤聖子さんとやりとりしてから店内へ。軽くピアノ音楽がかかる中、本が気持ちよさそうに並んでいる。
「父と母が1973年に印刷会社として創業した、詩が中心の出版社です。あるとき沖縄の詩集が出て、那覇の小さな古本屋、ウララさんへ営業に行ったスタッフが、『ウチも本屋を』と発案してくれて」と後藤さん。2016年に書店が明大前で始動。ここへは21年に出版社ともども移転してきたそう。
戦後以降のありとあらゆる詩人にお会いした気分
約36平方メートル。「自社本と詩歌中心の新刊本、作家さんたちから買い取る古本の3本立て」とのこと。
ぐるりと回り、戦後以降のありとあらゆる詩人にお会いした気分。それに分かった。詩的な物語の本もしっかり陣取っていることが。例えば穂村弘の「きっとあの人は眠っているんだよ」とか和田博文編「森の文学館」「猫の文学館」とか。わっ、思潮社の現代詩文庫が全巻揃っている……などと言っている場合じゃなかった。
自社本のコーナーがすごかったからだ。詩そのものに疎くて、ごめんなさいだけど、もこもこしていたり、中間色がきれいだったり、装丁があまりにもすてきな詩集がずらりだったのだ。どれにしようか悩みまくった挙げ句、買ったのは、表紙のちぎり絵がたまらない、西尾勝彦著「のほほんと暮らす」。
「うっかり入ってきて、詩集を買ってほしいんです」と後藤さん。してやられた。
◆世田谷区豪徳寺1-2-7 三枝マンション1階/℡03.6804.4788/小田急線豪徳寺駅から徒歩7分/11時~19時半/水曜休
ウチの推しの本
「それからはスープのことばかり考えて暮らした」吉田篤弘著
「レジの近くに、固定して『吉田篤弘さんコーナー』を作っています。私が好きだから(笑)。吉田さんは、豪徳寺の生まれ育ち。豪徳寺など、世田谷線沿線のような町を舞台にしたお話が多いんですね。『つむじ風食堂の夜』『レインコートを着た犬』ともども、表紙を見せて並べています。3冊とも代表作です。未読の方はまずこの本を。読むと、サンドイッチが食べたくなりますよ」
(中央公論新社 770円)