井上理津子
著者のコラム一覧
井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

書肆七味(大阪・阿倍野)シェア型書店考案者ここにあり

公開日: 更新日:

 隣にスーパーや100均ショップ。生活感のある地下通路に面していて、立ち止まる人が次から次。近年、シェア本棚がはやっているが、その元祖が、ここ「書肆七味」の店主。すごい人だと聞いてきたが、あら。

「2013年に阿倍野区文の里で、1軒目の古本屋を始めたとき、棚が埋まらないから(笑)、研究者の友達の本の委託販売をしたんですよ」

 そう話し始めてくれた岸昆さんの、なんと穏やかなことよ。「委託販売の延長で、2軒目に“ひと枠ごとに店主がいる古本屋”を17年につくった」。つまり、それが日本初・シェア本棚の店舗だ。

 あれよあれよと増えた、ひと枠店主がマックスの80組に達し、その人たちの自主運営の形に移行させる。一方で、「少しは商売を」と、20年にシェア本棚+自前の古本で新設したのが「書肆七味」だそう。すごいな。岸さん、元は何をなさっていたのです? 

「演劇人でした。モノを作るという意味では、演劇も本屋も一緒ですね」という奥深~い話、紙幅がないため断腸の思いで割愛。

「どう?私のワールド」と各木箱が誘いかけてくる

 店には、縦38×横36×奥行き22センチの木箱がずらり185個並び、「6割を参加者、4割をウチが使っています」と岸さん。木箱1つを借りる料金が「1カ月550円」って、安すぎるー。希望する人が「店番」をする。本の売値は出品者が自由につけるが、売り上げのうち「本人70%、店番20%、店10%」が取り分。「月に1回、店番をすると、棚を借りる額が出る仕組みです」と聞いて、「素晴らしい」と思わず。

 さて、店内にいると、「どう? 私のワールド」と各木箱が誘いをかけてくる。サブカル本が詰まりまくっていたり、大阪、沖縄、仏教昭和史、アジア旅、食事と病気、SF、幻想小説など、皆さんそれぞれに個性的なテーマ設定なので、見ていて飽きない。店の自前の棚は、演劇、ダンス、哲学・思想、文芸など幅広いもよう。「古本好きな人が、一定量いらっしゃいますから」と岸さん。ふむふむ。庶民的なエリアにして、しっかり集客、頼もしい。「1軒目と2軒目の店も、追って取材させてください」と頼んで、おいとました。

◆大阪市阿倍野区阿倍野筋3-10-1 あべのベルタB1/℡06.6654.3932(居留守文庫)/地下鉄谷町線阿倍野駅から徒歩1分/13~19時/無休

ウチの推し本

「貧困の克服──アジア発展の鍵は何か」アマルティア・セン著、大石りら訳

「著者は1998年度のノーベル経済学賞を受賞した経済学者です。アジアの発展の鍵は、金持ちが金持ちのままでいられるかではなく、『貧困をどう克服するか』だと。2002年に出版された本ですが、今読んでも大事なことが書かれている、経済学の入門書。経済学の研究者の蔵書を買い取った中に入っていた本で、これは1冊しかありませんが、関連書がワゴンにいっぱいありますので……」

(集英社新書 売値330円)

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