三日月書店(国立)9.11を機に問題意識を持ち中東を中心に据えた古本屋に
「昔、谷川書店という名物書店があった場所なんです」と、店主・山崎講平さんが写真を見せてくれた。古本がうずたかく積まれた中、当時の店主がにこやかな顔を見せている。高齢につき10年前に閉店。4.5坪のこの真四角の空間は、3年前から「三日月書店」となったことを喜んでいる、と思った。
「雰囲気はかなり違いますが」
白壁を背にした本棚に、アラビア語、ペルシャ語の本がずらり。文学、哲学、思想。そして、目に飛び込む日本語の本のタイトルは、「イスラームと商業の歴史人類学」「アラブ・イスラム社会の異人論」「カリフ宮廷のしきたり」などなど。中東を中心に据えた古本屋さんだ。おそらくほかに類を見ない。なぜ、こうした分野に?
「今42歳ですが、20歳くらいのときに9.11だったんです」と山崎さん。さとい年頃に問題意識を持った、と言わずもがな。「ヨーロッパと中国・日本の本を扱う本屋は多いが、真ん中があいていた(笑)」ともおっしゃる。社会科学系で名を馳せた高円寺の都丸書店(2020年閉店)からの独立組だ。開業してから、学校に通ってアラビア語を勉強したと。
ロシア、インドなどをテーマにした本や一味違う各国絵本もたっぷり
パレスチナやイラン、ベイルートなどの出版社の本を取り寄せ、12年から目録を作って研究者らに送付。いわゆる「目録販売」で実績をつくった上での実店舗だ。
私など、ちんぷんかんぷんだ──と思ったのを察したであろう山崎さんが、ひょいと一冊の絵本を取り出した。
小林豊著「せかいいちうつくしいぼくの村」。戦争中に、アフガニスタンの山あいの地で明るく生きる人々が描かれている。はたまた「イラン映画の歴史」「革命前イラン音楽ポスター集」も見せてくれ、そのデザインに感嘆する。いろいろな問題が内在していて争いが続く国にも“人々の日常”がある、と改めて気付かされる。
「うちの店に来たのをきっかけに、アラビア語を勉強しようと思う人が出てきたらいいなー」と山崎さん。ほかにもロシア、インド、東南アジア、中国、ラテンアメリカなどがテーマの本や、一味違う各国絵本もたっぷり。
◆国立市東1-17-20 サンライズ21ビル101/℡042.505.6223/JR中央線国立駅から徒歩5分/11~18時、日曜休み
ウチらしい本
「現代アラブ文学選」野間宏責任編集 1974年 創樹社
「例えば『世界文学全集』にもアラブ語の本は非常に少ないんですね。そんな中、この本は、小説、戯曲、詩、評論が収録された、アラブ文学の日本初のアンソロジーです。詩だとマフムード・ダルウィーシュの『パレスチナの恋人』、小説だとガッサーン・カナファーニーの『ハイファに戻って』。それにノーベル文学賞も取ったナギーブ・マフフーズの『狂気の独白』……。貴重な一冊です」
(売値 1400円)