「鳥と港」佐原ひかり著
「鳥と港」佐原ひかり著
大学院卒の春指みなとは25歳。入社したものの、日報のまとめや意識改革に関わる上面の言葉をまとめ続ける業務に意味を見いだせず、9カ月で退職。1カ月後、みなとは立ち寄った公園で草むらに埋もれた郵便箱を見つける。中には手紙が入っており、返事を書いたことから“あすか”さんと文通が始まった。何通かの手紙のやりとりの後、みなとは郵便箱の前で少年と出会う。彼こそがみなとの文通相手、不登校の高校2年生、森本飛鳥だった。
年齢差がありながらも、2人にはどこか通じるものがあり、やがて自分たちをつないだ文通を仕事にしようと、クラウドファンディングに挑戦する。飛鳥の父親で人気作家の実が宣伝に一役買ったことで、文通屋「鳥と港」はメディアにも注目され、申し込みが殺到。しかし当初の理想から徐々にズレていく日々にみなとは苛立ち、飛鳥を傷つける言葉を吐いてしまう……。
「手紙」を軸に、不器用な2人が、時に心通わせ、時にぶつかりながら前へ進んでいく姿をさまざまなエピソードを交えながら描く。彼らに共通するのは「言葉」へのこだわりだ。自分の思いを伝え、相手の言葉に耳を傾け、心の裡を推しはかる。タイパ重視の現代において、改めてコミュニケーションが人との関係の礎であることに気付かされる。
(小学館 1870円)