「武器としての土着思考」青木真兵著
「武器としての土着思考」青木真兵著
人口1600人の奈良県東吉野村に移住し、私設図書館ルチャ・リブロを運営している著者。そのきっかけは都市生活において覚えた「危機感」だったという。資本の原理が支配する世界に身を置き、侵されてしまうと人はすべてを「商品」としか見ることができなくなってしまう。この感覚を少しでも和らげるために、地に足をつけること=「土着」という「自分にちょうどよい」が必要だった。
現代社会では物質的な豊かさと引き換えに「自分の生」は「商品を選ぶ」ことと同じ意味になってしまい、「労働力としての商品価値」があるかが人の命を測る基準になっている、と著者は指摘する。それに気づくためにはいったん、社会の外に出ること。
その社会の外とは世俗の論理が通じない場所で、たとえば山村での暮らしの基本は、商品を基礎づける経済合理性ではなく不合理にある。その不合理があるからこそ、できないことを他人に頼むことになり、それこそが他者ニーズから抜け出す個人的な体験を生み出すことになる、という。
土着的思考から、生きること、働くこと、住むことの「ちょうどよい」を見つけるヒントをつづった本書。ひとつの原理におぼれず、社会の内と外とを行き来するという発想に、新しい社会の在り方が見えてきそうだ。
(東洋経済新報社 1980円)