招かれざる客が来た!?時代小説特集
「南天の花」知野みさき著
われわれはいろいろなモノと関わりあって暮らしている。家族とかペットとか福の神ならまだしも、それが疫病神や貧乏神だったら? 平穏な暮らしを願っているのにちょっとした出来事にまきこまれた人びとを描く時代小説。
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「南天の花」知野みさき著
縫箔師の咲は日本橋の小間物屋、桝田屋に、干支を縫い取りした守り袋を納めに行った。若女将の美弥の次の注文は椿を意匠にした「初嵐」。同じ白い椿でも「白玉」はつぼみが丸く、花は抱え咲き、「初嵐」はつぼみがとがって花は喇叭咲きである。
美弥は8年前に前夫の誠之助を亡くし、子どもも流産するという不幸に見舞われた。だが、手代として支えてくれた志郎と再婚し、子どもを身ごもった。あと2カ月ほどで臨月を迎える。そこに誠之助の母、寿が顔を出し、咲を誘って近くの茶屋に向かった。寿は声をひそめて言った。
「志郎さんが、女の人と会っているのよ」
近所のおかみが浅草寺で若い女と買い物をしている志郎を見たというのだ。(「昔の女」)
幸せを念じて守り袋を作る女職人と周囲の人びとの心温まる物語。 (角川春樹事務所 748円)
「騙された!」野口卓著
「騙された!」野口卓著
黒船町で将棋会所を営む信吾は、客と対局していて烏の話題になった。烏が一声だけ鳴くと、「一口烏」といって葬式が出るという。
客が帰った後、京作老人が、事情があって自分が世話をしている烏を見たくないかと信吾に声をかけた。烏は早起きで七つ半には活動を始めるというので、その時刻に行った。動物と話ができる信吾は烏と話せるかもしれないと期待したのだ。
京作は巣から落ちて翼の骨を折った烏のひなを飼っているが、事情が分からない親鳥に攻撃されているという。自分が敵ではないことをなんとか親鳥に伝えたいと。信吾は狐の母仔のことを思い出した。野良犬や猛禽から子どもを守るために、母狐は絶えず移動して仔を敵から隠すという。(「烏がやって来た」)
将棋会所と「おやこ相談屋」を営み、さまざまな相談に応じる席亭の物語。 (集英社 715円)
「貧乏神あんど福の神 死神さんいらっしゃい」田中啓文著
「貧乏神あんど福の神 死神さんいらっしゃい」田中啓文著
貧乏絵師の葛幸助は大坂の「日暮らし長屋」に住んでいる。かつては大名のお抱え絵師だったが、クビになった。絵の注文はほとんどなく、筆づくりでなんとか食いつないでいる。
ある日、ネズミに似た小動物がやってきて、一回転すると老人に変身した。実はそれは疫病神で、いるだけで災いがやってくる。平安の昔、陰陽師の安倍晴明に屏風絵の中に封じ込められていたのだが、幸助が絵の上に酒をこぼしたため、封印が解けてしまったのだ。
疫病神とはいえ、ヒマなときには話し相手になるので、幸助が酒とスルメを買いに行くと、居酒屋でいさかいの声がする。定町廻り同心の古畑良次郎が、金持ちから盗んだ小判をばらまいて人気の高い「えびす小僧」を捕らえようとしていると、責められているらしい。
貧乏絵師が活躍する人気シリーズの時代小説。 (徳間書店 990円)
「夜叉神の呪い」井川香四郎著
「夜叉神の呪い」井川香四郎著
北町奉行所定町廻りの加納福之介が駒形の半次と、炎のような髪をした夜叉神が出るという噂をしながら大川の土手を歩いていた。すると、突然、半次が「う、後ろっ!」と叫び、手提灯を投げ捨てて走り出した。加納が後ろを振り返ると、真っ赤な髪の男が口から血を流しながら「お助けを……」と言って気を失った。男は大ケガをしていたが、翌日、意識を取り戻したとき、自分が誰かもわからなかった。
その後、加納が水茶屋「おたふく」の梅と、季節外れの花火見物に行ったとき、やはり赤い髪をした男が、追ってきた浪人風の男に加納の目の前で斬られて死んだ。それは1年前に行方知れずになった大工の仁吉で、金儲けの口があると言っていたという。(「第一話 夜叉神の呪い」)
水茶屋の美人3姉妹が事件の謎を解く時代小説4編。 (実業之日本社 836円)