「男と女」大人の心を打つ60年代の一途なメンタリティー

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 アンヌが優しく頼りがいのある男と出会っても過去と決別できないのはこの時代のメンタリティーゆえだろう。61年の仏映画「かくも長き不在」はゲシュタポに逮捕された夫を捜し求める妻の悲哀が感動を呼んだ。本作が公開された60年代の日本には夫を戦争で亡くして独身を通す女性が存在した。筆者の小学校にも戦死したいいなずけのために結婚しない女性教師がいた。時代は違うが、芸能界では歌手のちあきなおみ。92年に夫が死去した際、棺にしがみついて「私も一緒に焼いて」と号泣、音楽界から去った。若い感覚では理解できないだろうが、昔の女性は一途だった。

 ただ本作はラストで一転する。夜のプラットホームで抱き合う男と女。わずかな時間の流れがアンヌの背中を押して愛情を確かなものとし、新たな人生に導いた。この劇的な心理変化を昔の観客は抱擁と接吻で実感した。本作が長らく語り継がれているのはこの大人の胸に響く無言劇のおかげ。文学を知らない子供は理解できないだろう。

(森田健司)

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