藤島メリー泰子名誉会長の死去から3週間…テレビ局のジャニーズ忖度はなくなるか?
ジャニーズ事務所の藤島メリー泰子名誉会長が8月14日に93歳で亡くなってから、間もなく3週間になる。同事務所の創業者で2019年に死去したジャニー喜多川氏はタレントの育成に取り組み、姉であるメリー氏はジャニーズ事務所のマネジメント役として辣腕を振るう。二人三脚で事務所を一大企業に育てた。
「昔は芸能事務所よりもテレビのほうが強かった。肖像権もないに等しく、過去の映像などは自由に使われていた。ブロマイドも『宣伝になるから』という理由で、基本的に対価の支払いもなかったようです。その状況を改善していこうとして、事務所が権利を主張し始めました。特に、ジャニーズは肖像権などに強く物申して、事務所側に事態を好転させた印象があります」(ベテランの芸能担当記者)
■80年代からテレビ局と芸能事務所の力関係が逆転
1980年代あたりからメディアと芸能事務所の力関係は変化していく。その頃、ジャニーズ事務所は田原俊彦、野村義男、近藤真彦の『たのきんトリオ』が爆発的に売れ、シブがき隊や少年隊、光GENJIも大ブレイクを果たし、芸能界で栄華を極めていった。
「メリー氏は事務所の人間が自社のタレントをスキャンダルから守ったり、有利になるように交渉を進めたりしていました。芸能マネジメントにおいて非常に優秀な方だったのは間違いない。メディアからすれば、かなり厄介な人だったでしょうね。日本にはあまりいないタフネゴシエーターですから」(前出の担当記者)
1990年代、ジャニーズ事務所はSMAP、TOKIO、V6、KinKi Kids、嵐といずれのグループも大成功を収めた。アーティストの大きな目標である日本武道館公演のみならず、スタジアムコンサートも開催されるほどの人気を誇った。
■寡占状態から独占状態へ
「男性アイドルは、1980年代はジャニーズ事務所の寡占状態、90年代は独占状態になったと言っていいでしょう。SMAPがバラエティーに進出して、中居正広が司会者としては花を開かせた。その後、国分太一や井ノ原快彦、櫻井翔などグループからテレビでMCをできる人材も育った。こうなると、テレビ局はなおさらジャニーズ事務所に気を遣うようになってしまう。ジャニーズに限らず、司会者や冠番組を持つ事務所の発言権は強くなりますからね。各局で何本も番組を持てば、テレビ界全体に自然と波及する」(民放テレビ関係者)
事務所を退所すると、現役の所属タレントと共演をできないとも言われている。
「郷ひろみさんのように普通に共演する方もいます。ただ、郷さんが大手事務所に移籍した70年代当時はジャニーズも強くないし、テレビのほうが力関係として事務所より上でしたからね。80年代以降に独立したアイドルは、テレビから遠ざかる場合が多くなりました」(前出の担当記者)
2016年以降、所属タレントが毎年のように退所
そんな状況を感じてか、1990年代後半から2000年代にかけて自らジャニーズ事務所を独立するタレントはほとんどいなかった。しかし、最近は退所者が続出している。2013年の田中聖を皮切りに、14年の赤西仁、16年の田口淳之介とKAT-TUNのメンバーが独立。17年には前年に解散した元SMAPの稲垣吾郎、草なぎ剛、香取慎吾が退所して『新しい地図』を立ち上げた。16年からは毎年、デビューして一世を風靡したタレントが辞めている。特に、ジャニー喜多川氏が亡くなった19年以降は関ジャニ∞の錦戸亮、中居正広、手越祐也、山下智久、少年隊の錦織一清と植草克秀、TOKIOの長瀬智也、近藤真彦が独立し、11月末にはV6の森田剛が事務所を去る。今年3月には病気治療のためにKing & Princeの岩橋玄樹も退所している。
「最近ジャニーズから独立したタレントで、在籍当時と変わらずにテレビに出ているのは中居正広くらいでしょう。退所前から司会のレギュラー番組をゴールデンタイムで数本持っていましたし、マネージャーはジャニーズから出向のような形で中居を手伝っている。独立はしたけど、ジャニーズとの関係が切れたわけではない。だから、テレビ局としてもやりやすい」(前出・民放テレビ関係者)
2019年には公正取引委員会がジャニーズ事務所を注意したと明らかになった。稲垣吾郎、草なぎ剛、香取慎吾の3人のテレビ番組出演を妨げるような圧力をかけた場合、独占禁止法違反につながる恐れがあるという内容だった。事務所はホームページ上で「テレビ局に圧力などをかけた事実はない」と否定し、「今後は誤解を受けないように留意したい」とコメントした。
日本放送協会とテレ東は治外法権…
「最近では草なぎがNHK大河ドラマ『青天を衝け』、香取がテレビ東京のドラマ『アノニマス~警視庁"指殺人"対策室~』、稲垣が連続テレビ小説『スカーレット』に出演していますし、いっときのような忖度はなくなっていると思います。ただ、NHKとテレ東は治外法権なところがありますし、他の民放はバラエティーのゲストでは使っても、レギュラーやドラマでの起用となるとまだ躊躇しているように思います」(前出・民放テレビ関係者)
公正取引委員会が動き、メディアを牛耳ったと言われるメリー氏が亡くなっても、テレビ業界とジャニーズ事務所の関係性は変わらないのか。
「長年の慣習はなかなか抜け切らない。今のテレビ界には、忖度が蔓延しています。自分たちが面白いものを作りたい、視聴者に楽しんでもらいたいという気持ち以上に、ジャニーズに限らず、まず芸能事務所の顔色を伺う人が目立ちます。テレビの力が相対的に弱くなっているから強く出られないこともありますし、この20年くらいで力関係が完全に逆転してしまった。事務所がタレントの扱い方に注文を出すことは当然ありますし、共演者が誰かもやたらと気にする。それは昔からありましたけど、制作側がかわして、自分たちの好きなようにやっていた。今は、最初から言うことを聞いて、反論しない体質になってしまっています」(前出・民放テレビ関係者)
■視聴者に忖度を感じ取られて数字が上がらない悪循環
今と昔で何が違うのか。
「破天荒なテレビマンが少なくなったのもあります。今は面白い番組を作る人は、事務所と絡むと色々言われるから、最初からあまりタレントが関わらないような内容にしてますね。昔は視聴率を取れたことも大きかった。事務所が高圧的に要求をしてきても、テレビ側の言う通りにして結果が出れば、何も言わなくなるんですよ。でも最近は数字が上がらないから、より事務所の言うことを聞いてしまう。そうすると、視聴者に忖度を感じ取られて、数字が上がらない。悪循環に陥っているように思います。ジャニーズのタレントを使うと、SNSなどで反応もありますし、固定客を取れる。無難な選択ではあるんですよね」(前出・民放テレビ関係者)
ジャニーズ事務所も激動の時代を迎えているが、テレビ界においては未だに力を持っているようだ。