【激辛爆笑対談】井筒和幸(映画監督)×松元ヒロ(ピン芸人)「表現の自由とは」を大いに語る

公開日: 更新日:

 日刊ゲンダイ連載「怒怒哀楽劇場」の井筒和幸監督とお笑い集団「ザ・ニュースペーパー」の元メンバーで、ドキュメンタリー映画「テレビで会えない芸人」が全国公開中のピン芸人、松元ヒロが初顔合わせ。「表現の自由」について熱く語った。

 ◇  ◇  ◇

 ──たまたまおふたりは同い年で初顔合わせということですが。

井筒「辰年なんですわ。坂本龍一もそうだけど、クリエーティブな人が多いんじゃないの。『テレビで会えない芸人』(注)を見たけど、あれは面白かったなあ」

松元「昔から監督の映画のファンなのでずっと年上だと思っていました。そう言ってくれるとうれしいですね」

 ──松元さんの笑いのネタはテレビではなかなか放送できないようですが。

松元「ボクのネタは権力を笑い飛ばしたり、常識を裏側から見たりするので、今のテレビでは難しいですね。政治や皇室、宗教ネタなどはタブー視されていますし。そこを逆手に取って、タブーの限界スレスレまで笑いにするのがボクの芸なんです。以前、テレビで皇室ネタをやったことがありますが、『戦争責任者』というセリフをカットされても放送していた。でも、最近は放送自体ができない。長年、日本に住んでいるドイツ人の知り合いが『ヒロさんのコントを聞いてホームシックになった』って言うんです。ドイツでは政治も宗教も当たり前のように笑いや風刺の対象になるから、そのことを思い出したそうです」

■芸能の根本は権威に対する抗議(井筒)

 ──井筒監督の映画「パッチギ!」は放送禁止歌「イムジン河」がテーマでした。

井筒「『イムジン河』の背景には南北朝鮮分断の悲劇があるよね。その根底には日本の侵略の歴史があるわけで、あれはプロテストソング、つまり抗議の歌です」

松元「映画の中の『歌っちゃいけない歌なんてないんだ』というセリフには泣かされました」

井筒「アメリカの芸人なんか政治を語ってナンボ、いかに政治をジョークで笑い飛ばすかだもんな。芸能の根本は権威に対する抗議だからね」

松元「日本の場合は問題を起こすと所属事務所やスポンサーに迷惑をかける、放送局に呼ばれなくなる……と結局、権力に忖度しますよね。ロシアとウクライナの戦争を見てて思うけど、お笑いなんて非常時になったら真っ先に消されるものじゃないですか。笑ってる場合じゃないって。昭和天皇崩御の時も歌舞音曲は自粛ムードになったし。武器をとるより、不真面目でバカバカしいお笑いで戦ったほうがいいと思うんです」

井筒「『パッチギ!』は“反日映画だ”と右翼から嫌がらせ」

 ──テレビのコンプライアンス(法令順守)も道徳的な意味合いが強まったような気がします。

松元「以前、ボクは北朝鮮の金正日のモノマネをして、朝鮮語の抑揚を笑いにしていましたが、ある日、在日の女性に『ヒロさん、私には笑えない。自分たちの文化を笑われている気がする』と言われました。自分の無意識の差別を指摘されたようでそのネタはやめました。やるやらないはテレビ局が決めるんじゃなく、芸人自身が判断することだと思うんです」

 ──映画界では慰安婦問題を描いた映画「主戦場」や1970年代に起きた連続爆弾テロ事件を扱った映画「狼をさがして」に対して右翼団体の抗議行動がありましたが。

井筒「オレも『パッチギ! LOVE&PEACE』の時、右翼から抗議を受けたよ。文化庁から助成金をもらって作った映画だから、『反日映画に助成金を出すのか』と文化庁が右翼の標的になってな。オレのところにも嫌がらせが来たけど、放っておいたらそのままになった」

松元「ボクの家にも右翼とおぼしき男から電話がかかってきたことがあります。カミさんが出たら、『おたくのダンナ、天皇陛下のことをいろいろ言ってるらしいな』とドスのきいた声で言ったそうです。『それがどうかしました?』とカミさんが冷ややかに言ったら、男が『あまり言わないほうがいいと思いまーす』と声のトーンが変わって電話が切れたとか。カミさんは全共闘運動の渦中にいた世代だから、全然ビビらないんですよ(笑)」

井筒「天皇制については、もっと語っていいと思うんだ。昔、作家の井上ひさしさんが右翼から抗議を受けたとき、『君は神武から始まる歴代天皇の名前を暗唱できるか? オレはできるぞ』と言って撃退したという逸話がある」

松元「実はボクは今、天皇ネタはやってないんです。なぜなら笑えないんだもの。最近のワイドショーなど、眞子さんがメトロポリタン美術館で無給ボランティアをしてるとか、夫の小室圭さんがニューヨーク州の弁護士試験で不合格になったとか、どうでもいいことに騒ぎ過ぎて、かわいそうですよ。あんなのは全然風刺にならないんです。みんなが真面目になり過ぎて笑いの幅もどんどん狭くなっているような気がします。日本人って熱狂的に一つ方向に向かってしまうから今の自民党政治を見ていると、戦前に近づいているような気がします」

松元「笑いを通して“平和”を訴えたい」

井筒「8000万枚といわれるアベノマスク保管に6億円、配布に5億円とかいうのも呆れるよな。あんなの産業廃棄物として埋めればいいんだ。そうしたら後世の日本人が掘り起こして『マスクが地層になっているけど、昔の日本人は何のためにこれを使ったのか?』という考古学になるだろう」

松元「そのネタいただきます(笑)」

井筒「今のテレビ局のコメンテーターは原発や政権批判すると番組が終わった後ディレクターに注意される。オレもコメンテーターやってる時はいろいろ言われたからね。そのうち、あいつは危ないから使えないとなる」

■舞台でやるお笑いが最後の砦かもしれない(松元)

松元「立川談志師匠は私の恩人でして、毀誉褒貶ある人ですけど、敗戦の時10歳だから戦争体験者。戦争は二度とやっちゃいけないという信念は持っていました。戦争体験者がどんどんいなくなっている今、平和を守るために、右とか左に関係なく、戦争はいけないって。それを笑いを通して伝えていきたいんです」

井筒「オレはそれを映画で表現していきたいな。ずっと温めているのが『全共闘映画』。日大や東大全共闘の闘いは一種のお祭りだった。“国家や大学はオレたちを管理するな”というところから始まった反乱なわけで、そこに革命論やベトナム戦争、安保が一本につながるわけだ。1968年から69年は音楽も美術も映画も前衛運動が爆発的に開花した時期じゃないですか。要するに表現の自由が謳歌した時代。面白い活劇になるよ」

松元「ボクはこれからも舞台が中心になると思います。お茶の間のお客さんをバカにしてるわけじゃないけど、テレビのニュースしか見ていない人たちだとボクの言おうとすることはわからないと思うんですよね。舞台が表現の自由の最後の砦かもしれません」

井筒「スタジオの笑い屋には松元さんの笑いはわかんないと思うよ」

松元「でも本当は外国みたいにテレビでもタブーなく話せる空気をテレビ自身がつくっていってほしいですね」

井筒「今度、松元さんの勇ましいカミさんを交えて3人で飲みながら策をめぐらそうじゃないですか(笑)」

(構成=山田勝仁)

※注=映画「テレビで会えない芸人」は松元ヒロの生き方や笑いの哲学から現代社会を映し出したドキュメンタリー。2020年5月に鹿児島のローカルテレビで放送され、日本民間放送連盟賞最優秀賞などさまざまな放送賞を受賞した同名ドキュメンタリー番組に追加撮影と再編集を加えて劇場公開。全国上映中。

▽井筒和幸(いづつ・かずゆき) 1952年、奈良県生まれ。映画監督、映画評論家。代表作に「ガキ帝国」「二代目はクリスチャン」「犬死にせしもの」「パッチギ!」「無頼」など。本紙コラム「怒怒哀楽劇場」連載中(金曜掲載)。

▽松元ヒロ(まつもと・ひろ) 1952年、鹿児島県出身。鹿児島実業高校、法政大を卒業後、パントマイマーとなり、全国巡演。85年、「お笑いスター誕生!!」で優勝。コント集団「ザ・ニュースペーパー」を経てピン芸人に。著書に絵本「憲法くん」ほか。※5月26~29日、新宿・紀伊國屋ホールで「松元ヒロ ひとり立ち」公演。

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