仲代達矢89歳「役者人生70周年」赤秋の境地…コロナ禍は無名塾の稽古場でひとり汗を流す
「コロナ禍では、弟子たちとの稽古もままならず、たったひとり、自宅にこもり、無名塾の稽古場で汗を流した。誰もが困惑し、どうしようもないような気持ちになった時も、仲代さんは『長い夏休みだ』と笑って、汗を流し、鍛錬を続けていたのです」
そう舞台関係者は言う。
最高傑作と呼び声の高い映画「切腹」(小林正樹監督)、「用心棒」などで、共に極限の高みを目指した黒沢明監督。「あなた、映画なんだから、そんなに大きい声出さないでいいの」と、舞台から銀幕にきた当初の仲代をたしなめたデコちゃんこと女優高峰秀子。誰もが鬼籍に入り、自らも「今作で引退。赤秋は終わり、どうみても冬の時代なのだから、冬眠したい気持ちもある」としつつ、「引退興行にはしたくない」と踏ん張る。
「人間は生まれて生きて、あの世にいく。私もそろそろだと思ってますが、生きてる間は」と仲代は言う。
■「生きている限り、やり抜きたい」
役者はやせ我慢、見えの商売。どんなに苦しくて、つらくても、なんでもない顔をして、観客の前に立てば、外面を良くする。「おーい、お茶」などと言ってくつろぐ、悠々自適の隠居生活は合わないとしつつ、こんな舞台裏も語っていた。人さし指で自分の額をコンコンと叩きながら。