仲代達矢89歳「役者人生70周年」赤秋の境地…コロナ禍は無名塾の稽古場でひとり汗を流す
「立ち止まったら、駄目になってしまうと思う」と。
老いや病にあらがい、現役でいるのは、膨大なせりふを覚え、台本通りに演じる努力あってのものなのだ。そして今も看板役者である劇団のためでもある。
「いざとなったら、ここを売っぱらってしまってもいい」
東京は世田谷区岡本の閑静な住宅地にある無名塾で、若い弟子たちのためなら、すべてを投げ出してもいいと静かに語ったこともある。
無名塾の年賀状などでは、仲代のこんな言葉が印刷されている。
《燃え尽きるまで……》
劇画「あしたのジョー」で矢吹丈が決死の覚悟で世界戦に臨んだときのように、「真っ白」になりたいのかと向けると、笑ってこう言った。
「生きている限り、やり抜きたい」
隠居だ余生だという人生には、90歳の卒寿を前にしても、いくつもりはない。
「失礼します」と大声を出し、直立で頭を下げて会場を後にする仲代の姿には、「生涯修行」をやり遂げようという潔さ、すがすがしさがあった。