佐野元春さんに以前から訊きたかったことを問うてみた
相手の酒井幹生選手(日本ミドル級3位)も重いパンチが印象的ないい選手。まだ30歳だから、細川とはおよそ10歳の歳の差がある。細川が苦境に立たされるたびに、ぼくの脳裡にアリスの名曲「チャンピオン」の一節〈年老いた悲しみを見た〉が流れだすのには往生した。「チャンピオン」は稀代のリリシスト谷村新司が綴る、老王者が若き挑戦者に敗れゆく物語。大スクリーンの映画でしか描けないような興奮と哀感、それを音だけで表現することに成功したアリス最大のヒット曲である。
同曲は昭和の名ボクサー、輪島功一の77年6月の最後の試合に想を得たといわれる。3度目の世界王座返り咲きを懸けてニカラグア人王者に挑むも、11回でKO負けを喫した試合だ。小学4年生のぼくも父親と一緒にテレビにかじりつき、輪島が王者に猛攻をかけるたびに大声を張り上げ、強打に見舞われて足がもたつくと悲鳴をあげたものだ――。
試合後の細川のガッツポーズにすっかり気持ちを鼓舞されたぼくは、意気揚々とスマホで輪島功一をググった。現役最後の試合となったあの日、彼は何歳だったのだろう。輪島の名がヒットして、当時の年齢が判明する。34歳。えっ。そんなに若かったの……しばし言葉を失う。それを〈年老いた悲しみ〉と言いきった谷村新司は当時28歳。早熟の才。やはりエンターテインメントをよくわかっていたのだなぁ。この10月で谷村が逝ってもう1年、ぼくの父が逝ってはや2年が経つ。