映画「箱男」の魅力とは…安部公房の世界を“娯楽”と“現代”に引き寄せた
対して今回の「箱男」は、石井監督が原作者が93年に亡くなる前に直接会って映画化権をもらったときに、唯一の条件として「娯楽にしてくれ」と言われたもので、原作世界を尊重しながらエンタメに引き寄せているのが特徴である。
基本の物語は、段ボールをかぶってのぞき窓を開け、完全に孤立することで社会を勝手に見つめて匿名性を獲得した“箱男”(永瀬正敏)が、彼からその座を奪おうとする“ニセ箱男”(浅野忠信)と対決するというもの。
■SNS全盛の日本は“1億総箱男化”
昨年夏、撮影現場にお邪魔して石井監督に話を聞いたが、彼は原作を読んだ時、“箱男”をダークヒーローのように感じたという。ただそれはマーベルもののような唯一無二のスーパーパワーを持つ存在ではなく、段ボールをかぶれば誰でもなれるところに日本的な面白さを覚えたとか。また石井監督は、段ボールをかぶらずとも誰もが匿名性を獲得しているSNS全盛の現代を思うと、日本はすでに“1億総箱男化”していると感じて、このテーマが今にも通じると改めて思った。逆に言えば安部公房が原作を書いた1973年から半世紀が過ぎ、時代の気分が彼の小説に追いついたともいえる。