映画「箱男」の魅力とは…安部公房の世界を“娯楽”と“現代”に引き寄せた
また映画には白本彩奈扮する葉子が登場するが、彼女が完全なる孤立を存在の基本とする“箱男”や“ニセ箱男”の心に揺らぎをもたらすヒロインとして強い印象を残す。原作では男性たちに搾取される側の葉子が、ある意味男たちを弄ぶような側面も持っているところが現代的な味付けで、石井監督はその部分でも今の時代に対する目配せを忘れていない。
最近、コロンビアの作家ガルシア・マルケスが1967年に発表した「百年の孤独」が初めて文庫化されて、若者層も巻き込んでちょっとしたブームになっているが、マルケスの小説の愛読者でもあったという安部公房の作品は、どこまで今の人々にアピールするか。石井岳龍という映像作家の目を通して、SNS時代の預言者とも言うべき彼の世界が、この映画によってマルケスのように再発見されるかもしれない。まずはあまり小難しく考えず、永瀬正敏、浅野忠信、佐藤浩市と日本映画界を代表する実力派俳優が揃った「箱男」を、見て楽しんでいただきたい。
(金澤誠/映画ライター)