「M-1」令和ロマンが主人公なら、エバースは裏主人公。泥臭い秀才コンビを応援したくなるのが人のサガだ
1点差で惜しくも敗退したエバース
今年も最高の盛り上がりを見せた「M-1グランプリ」(ABC・テレビ朝日系)。令和ロマンが史上初の2連覇を果たしたものの、ダークホースのバッテリィズや4連続の決勝進出となる真空ジェシカらが一歩も引かない戦いを見せてくれた。
かつて年間100本以上のライブに出演し、自身もライブ主催者の経験もある現役芸人・帽子田(仮名)は「M-1グランプリ2024」は4位になったエバースに注目。エバースの魅力について以下のように語る。
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令和ロマンはお笑い界の主人公になった
今年のM-1も面白かった。M-1が復活した2015年のエントリー数は3472組だったが、1万330組と3倍近くに増加。すっかり国民的なイベントである。予選の難易度も昔とは桁違いになってしまった。
令和ロマンが2連覇しようものなら地獄のようなM-1になるのだろうな、と思っていたが、他組も引けを取らないほどウケていたおかげで、例年にないほど良い大会に仕上がった。
いまや令和ロマンはお笑い界の主人公枠だとつくづく実感する(ダークヒーロー気味ではあるが)。令和ロマンが中心となってお笑い界が進んでいる。お笑い界に物申せばそれがニュースになり、先輩後輩関係なく「令和ロマンの主張」に対して語り合う。「『漫才過剰考察』読んだ?」と楽屋で言い合う。
それは令和ロマンが若いながらも誰もが追い付けない圧倒的な天才であり、血の滲むような努力というよりかは非凡な才能でもって周囲を魅了しているからだ。芸人が見る夢物語みたいな主人公が「令和ロマン」なのだ。
実力者だが苦労人。エバースにようやく光が
かく言う僕も令和ロマンの格好良さには目が眩むが、今年はエバースから目が離せない一年だった。エバースは結成9年目。今回初めてM-1決勝に進み、4位と健闘した。
エバースが名前を知らしめたのは昨年のM-1の敗者復活。まだ知名度がないにも関わらず、人気者であり実力者であるトム・ブラウンを破ったことで話題になった。さらに今年は「上方漫才協会大賞」「ABCお笑いグランプリ」「NHK新人お笑い大賞」の決勝に進むなど、まさに大躍進だった。
個人的にはエバースが全決勝で違うネタをやっていたのに感心した。「M-1の決勝では弾切れになってしまうのでは?」と思っていたが、完成度の高い別ネタを披露しており、いらぬ心配だった。
エバースを今年知った人や、上で並べた情報だけ見ると「エバースも天才枠なのかな」と思ってしまうだろう。だがエバースは実は多くの挫折を味わい、血が滲むような努力の末に、ようやく光を浴びだした苦労人なのだ。
SNSでは「令和ロマンさえいなければ…」の声も
M-1の戦績でいえば2015年から2021年まで、1~3回戦でとどまっておりパッとしない。2019年になんとか3回戦に進出しているが、2020年には1回戦で落ちてしまっている。前年度の成績を下回るのは、芸人の感覚でいうとかなりつらい。
成功のビジョンが見えなくなり、芸人を諦めたくなるほどしんどい。実力主義の吉本では、この戦績では居心地もあまり良くなかっただろう。
一方、令和ロマンは2017年に初参戦し、2018年には準決勝まで駒を進めている。これだけでも令和ロマンのバケモノ具合が分かる。
バケモノじみた後輩の結果を近くで見ながらも、エバースは腐らず数多くのネタを作り、無骨にネタを磨いた。着実に実力を身に着け、それが今年花開いて数々の賞レースに出場。しかし立ちはだかったのが、また「令和ロマン」だ。
ABCグランプリではエバースは3位にとどまり、令和ロマンが優勝。満を持して参戦したM-1決勝でも令和ロマンに阻まれ、4位となった。
X上では「今年令和ロマンが出てさえいなければ、エバースが繰り上がりで予選3位になって優勝のチャンスがあったかもしれない」というポストが多数のいいねを集めていた。
エバースが「圧倒的な天才」を倒す瞬間を見たい
令和ロマンが主人公だとすると、エバースは裏主人公だ。圧倒的な才能の光の影に隠れて努力を重ね、結果が出ず挫折も味わった。それでも実力をつけて挑んだ賞レースで、目の前で後輩である令和ロマンに2度も優勝をかっさらわれる。きっと叫んでしまいそうなほど悔しいだろう。
令和ロマンのような鮮烈な天才もよいが、エバースのような泥臭い秀才を応援したくなるのが人のサガではないだろうか。エバースが令和ロマンを倒す瞬間をいつか見てみたいし、きっと来るだろうと思う。
エバースは近いうちに裏主人公ではなく、お笑い界の主人公になってほしい。エバースが2025年以降のお笑い界をもっと盛り上げてくれると信じている。
(帽子田/芸人、ライター)