コンクラーベの裏側を暴いた『教皇選挙』 作品のメッセージをどう解釈するかでその人の知性が分かる

公開日: 更新日:

セリフの少ない役柄を淡々とこなすレイフ・ファインズの貫禄

 本作を見ながら「ゴッドファーザーPARTⅢ」を思い出した。高潔な印象の強いバチカンの聖職者たちも、ひと皮むけば腐敗した俗物というのが「ゴッドファーザー~」の仕掛けだったが、この「教皇選挙」も変わらない。ここに集まった人々はいずれも高位の枢機卿だ。だがその本性は野心に満ちており、なかにはいびつな考えに染まった者もいる。米国政治に例えればトランプ型もいるしマスク型もいる。どこの世界でも差別主義者や自己顕示欲が旺盛な連中が跋扈しているものだ。

 そうした魑魅魍魎の戦いの場で、ローレンスは終始無表情で枢機卿たちの提案や裏取引の誘いを受けつつ、冷静に対処しようとする。今年のアカデミー賞は「アノーラ」が作品賞を、「ブルータリスト」のエイドリアン・ブロディが主演男優賞を取ったが、この「教皇選挙」が両賞を取ってもおかしくなかった。ローレンスを演じたレイフ・ファインズの演技がエイドリアン・ブロディに劣っていたとは思えない。セリフの少ない役柄を淡々とこなす姿は62歳の貫禄を発揮していた。

 本作は美術も素晴らしい。建物や調度品、衣装などの重厚な映像から、本物のバチカン宮殿で撮影したのかと錯覚してしまうが、実はローマの撮影所「チネチッタ」を使った。最も大がかりなシスティーナ礼拝堂はチネチッタの倉庫に残されていた昔のセットを修復したのだという。

 コンクラーベの行方は予告編で見られる爆破によってあらぬ方向に向かう。さらにラストでもう一段の仕掛けがあらわとなる。そこには先日のトランプ大統領の施政方針演説に対抗するかのような主張が盛り込まれているのだが、それは見てのお楽しみ。

 本作はコンクラーベという儀式の裏側に潜むエゴや正義感、理性をえぐり出した力作。観客ははらはらしながら物語の推移を見守る。だがその結末は悲観的なものではなく、今日的な問題提起を我々に突きつけてくる。この作品のメッセージをどのように解釈するかでその人の知性が分かるはずだ。さて、日本列島にも分布するトランプ信者たちはどんな感想を抱くのだろうか。

(文=森田健司)

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 芸能のアクセスランキング

  1. 1

    朝ドラ「あんぱん」教官役の瀧内公美には脱ぎまくった過去…今クールドラマ出演者たちのプチ情報

  2. 2

    中井貴一の“困り芸”は匠の技だが…「続・続・最後から二番目の恋」ファンが唱える《微妙な違和感》の正体

  3. 3

    水谷豊に“忖度”?NHK『BE:FIRST』特集放送に批判…民放も事務所も三山凌輝を“処分”できない事情

  4. 4

    永野芽郁「鋼のメンタル」も文春砲第2弾でついに崩壊か?田中圭との“口裏合わせ”疑惑も浮上…CMスポンサーどう動く

  5. 5

    永野芽郁「かくかくしかじか」"強行突破"で慌しい動き…フジCM中止も《東村アキコ役は適役》との声が

  1. 6

    頭が痛いのは水谷豊だけじゃない…三山凌輝スキャンダルで間宮祥太朗「イグナイト」“爆死”へ加速危機

  2. 7

    永野芽郁の「清純派枠」を狙うのは"二股不倫報道”の田中圭と同じ事務所の有望株という皮肉

  3. 8

    慶応幼稚舎の願書備考欄に「親族が出身者」と書くメリットは? 縁故入学が横行していた過去の例

  4. 9

    趣里の結婚で揺れる水谷ファミリーと「希代のワル」と対峙した梅宮ファミリー…当時と現在の決定的な違い

  5. 10

    Kōki,主演「女神降臨」大爆死で木村拓哉がついに"登場"も リベンジ作品候補は「教場」か「マスカレード」シリーズか

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    朝ドラ「あんぱん」教官役の瀧内公美には脱ぎまくった過去…今クールドラマ出演者たちのプチ情報

  2. 2

    中井貴一の“困り芸”は匠の技だが…「続・続・最後から二番目の恋」ファンが唱える《微妙な違和感》の正体

  3. 3

    大阪万博会場の孤島「夢洲」で水のトラブル続出の必然…トイレ故障も虫大量発生も原因は同じ

  4. 4

    渋谷区と世田谷区がマイナ保険証と資格確認書の「2枚持ち」認める…自治体の謀反がいよいよ始まった

  5. 5

    Kōki,主演「女神降臨」大爆死で木村拓哉がついに"登場"も リベンジ作品候補は「教場」か「マスカレード」シリーズか

  1. 6

    森友文書の一部欠落で財務省が回答…公表された概要リストに「安倍昭恵」の名前

  2. 7

    巨人阿部監督がオンカジ送検の増田大輝を「禊降格」しないワケ…《中心でなくても、いないと困る選手》

  3. 8

    早実初等部を凌駕する慶応幼稚舎の人脈網…パワーカップルを惹きつけるもう一つの理由

  4. 9

    オンカジ騒動 巨人オコエ瑠偉が「バクダン」投下!《楽天の先輩》実名公表に現実味

  5. 10

    迷走続く「マレリ・ホールディングス」再建…金融界の最大の懸念は日産との共倒れ