「時代とFUCKした男」加納典明(7)一流には理由がある。それを知るか知らないか。畑さんにもそんな話をした
好き嫌いにも訳がある
加納「うん。一流と正反対のものでも、そこに意味とか価値とか『これ本当はいいじゃない』っていうことも多々ありますよね。それは俺の〝鑑識眼〟の問題だよ。自分の価値観というか、自分のキャリアというか、持って生まれたものも含めて、僕が人生を尽くして自分の中で育ててきた感性ってのは、やっぱりその人生を送ってみないとわからない部分があるわけだから、そういうものの総合体である〝加納典明〟がチョイスするわけ。
間違ったチョイスになることだってもちろんありますし、それはそれでいいと思う。その辺の集中の仕方というのは、僕は他の人よりこだわるところがあると思いますね」
増田「ブランドなんてどうでもいいよって言って最初から使わない人もいるじゃないですか。そうじゃなくて、使ってみないとわからないということですよね。それは先ほど人間の話もされましたけど、人についても付き合ってみないとわからない、抱いてみないとわからない、撮ってみないとわからないと」
加納「やっぱり参加しないと。はたから見ていたんじゃ絶対わからない。自分の実存をかけてそこに集中していかないと。関係しないと」
増田「そこまで集中しますか」
加納「もちろん。実存をかけて。例えば、花が奇麗だなと思っても、その奇麗だなっていうのは、最初はただの勘ですよね。それは一瞬のことで、好きになるか嫌いになるかというのは分かれると思うんだけど、それぞれには恐らく訳があるはずで。こだわりの多様性っていうのかな、いろいろあった方が僕はいいと思いますね」
増田「そういうことを畑さんに言ったんですか」
加納「そう。そういう話をしていくうちに少しずつ興味を持って、彼も変わっていったと思う」
(第8回につづく=火・木曜掲載)
▽かのう・てんめい:1942年、愛知県生まれ。19歳で上京し、広告写真家・杵島隆氏に師事する。その後、フリーの写真家として広告を中心に活躍。69年に開催した個展「FUCK」で一躍脚光を浴びる。グラビア撮影では過激ヌードの巨匠として名を馳せる一方、タレント活動やムツゴロウ王国への移住など写真家の枠を超えたパフォーマンスでも話題に。日宣美賞、APA賞、朝日広告賞、毎日広告賞など受賞多数。
▽ますだ・としなり:1965年、愛知県生まれ。小説家。北海道大学中退。中日新聞社時代の2006年「シャトゥーン ヒグマの森」でこのミステリーがすごい!大賞優秀賞を受賞してデビュー。12年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一ノンフィクション賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。3月に上梓した「警察官の心臓」(講談社)が好評発売中。