<10>泣かない「夢の中で泣いてしまったことが妻にバレた」
佳江さんは終の棲家である杉並のマンションで過ごしていた。在宅死を希望した彼女のために在宅医療の先生に往診を頼んでいた。
彼女の命が燃えつきようとしていた数日前、小宮さんは往診の医師に「この2、3日で」と最期の日が近いことを告げられたという。
「在宅医療の先生の大事な話の前だったのか後だったのか、今の私にははっきりしないのですが、その頃、彼女は介護ベッドに寝たままになっていて、私は自分の寝具を妻の横に移動してフローリングの床に敷き、いつでも対応できるように添い寝していました」
記憶では、明け方近くだったという。決して泣かないと思っていた小宮さんが、その日だけはミスを犯す。
「夢の中で泣いていて、実際に起きてみると泣いていることが私にはよくあります。その日も鼻をすすっていて、目を覚ました佳江にバレてしまった。『どうしたの?』という顔でこちらをのぞいていたので、『ごめん、佳江ちゃんがいなくなるのかと思ったら泣いちゃってたんだ』と答えました。ただ、その時、彼女は『いいよ、……うれしいよ』と、笑顔で私を見ていました」
2012年10月31日、18時36分――。佳江さんは夫の小宮孝泰と実母に見守られて目を閉じた。
(つづく)