<10>泣かない「夢の中で泣いてしまったことが妻にバレた」
2012年の夏も今年のように暑い夏で、病状が進行していた佳江さんは、東京・北区の十条にある義母の実家で過ごすことが多かった。
いよいよお別れは近づいている。しかし、小宮さんは妻の前で泣くことだけは戒めていた。
「佳江も自分の病気のことでは泣きませんでした。僕が彼女を理解してあげられなくて、ほったらかしにしたことがあったり、気持ちを逆なでしてしまったり、傷つけるようなこともあった。さすがに誕生日に菊の花の交じった花束を買ったときは大泣きされましたが、彼女は常に他人のことを考えるような人だった。義母との旅行でも、自分が率先して計画を立てていました。とはいえ、どんなに準備万端でも、旅先では何が起こるか分からず、計画通りに進まないこともあります。せっかく計画していたのに台無しになった、という悔し涙はありました。また、評判の展覧会があって、僕も興味があり、『一緒に見に行こうよ』と約束したのにもかかわらず、数日経ってから『ごめん、やっぱり行けないわ』と断ってしまった際は、『できない約束はして欲しくない』と目に涙をためられたこともありました」