<最終回>本を出す「思い出す度、故人は生き続ける」
佳江さんが2012年10月31日に亡くなってから6年の長い月日が過ぎた。小宮さんはある日、「秀和システム」の編集者と知り合い、「猫女房」というタイトルで追想本を出版することになった。
芸能人が妻の闘病記を出すことについては、売名行為といった陰口が常に付きまとう。小宮さんも葛藤を隠さない。
「この取材を受けるにあたり、前日から自問していました。書かなければいけないものでもないし、書くことで何かしらの対価はもらうわけであって、そういうことはちょっと心苦しいなあ……というのは、やっぱりないわけではなかった。世間が言う通り、ある意味、売名行為にもなるわけですし、本を出すことへの葛藤はありましたね」
実際のところ、小宮さんに出版の予定はなかった。もし仮に出版を予定していたなら、亡くなってすぐの方が得られた利益は大きかったはずで、6年もかかったという時点で最初からその意思が薄かったことが分かる。
「妻の亡きあとに、数年かけて彼女のほとんどの文章をパソコンでテキストファイルに打ち出して整理しました。5000枚にのぼる妻が撮った猫の写真もCD―Rに落としました。それは妻の記憶の追体験でもあったし、私の気持ちの整理でもあった。そして本にしたのは、自分へのケジメの意味もありました。こういう世界に生きる者としては、書くことによって表現したいという気持ちもありました。でも、もともとは妻のことを知っているごく親しい人たちに向け、『妻はこんな感じで生きてきたんですよ』と伝えたかったのです」