親として子供にどう「性」を伝えるべきか? 性教育に力を入れる医師に聞いた
とはいえ岩室医師も、性教育の講演を始めた当初、正解を並べていたという。
「HIV/AIDSの普及啓発ということもあり、『エイズウイルスに感染しないためにはノーセックスかコンドーム』と伝え続けていました。科学的には正しい内容ではありますが、しかし、結果的にエイズウイルスに感染した人は私のその話を聞いて、私の外来を受診しようと思うか。『正解を聞いていたのに自分は守れなかった』と外来を受診できないのではないか。そもそも正解を並べても、『そうですよね』となるだけで、伝わらない。私自身も、講演の中で正解を押し付ける正解依存症だったと思い知らされたのです」
良いか・悪いかではなく、岩室医師が患者や友人・知人との交流の中で得たエピソードを講演で淡々と伝えていく。それらを通して「究極の目的」としているのが、「一人一人が自分らしく生きられる。失敗しても、自分らしく生きられる」というメッセージを伝えること。
■「理解」より「認める」
「私がHIV/AIDSに関わり始めた頃、ゲイの友人から突然カミングアウトされ、思わず『なんでゲイなの?』と聞いてしまったんです。すると『岩室さんはなぜ女が好きなの?』と問い返され、答えられなかった。自分がなぜ異性愛者かすら説明できず、理解できないのに、性的指向が異なる人を理解するのは無理。世の中にはいろんな価値観や経験、生き方がある。『理解する』という上から目線ではなく、理解できなくても多様性を認めていく。性感染症の話などは結果としてついてくるもので、『自分らしく生きる』ことを伝えるのが性教育だと考えています」