各地で発生する死亡事故の裏に…「運転中の失神」「病気と薬の影響」にドライバー要注意
このところ病気が原因とみられる交通事故が相次いでいる。正月休みに帰省や旅行でクルマを利用する機会が増えるだけに健康に自信がある人も過信は禁物だ。悲惨な事故の裏にはありふれた病気が絡んでいるという。
広島県三原市の国道2号のトンネルで今月19日午前9時過ぎ、大型トラックの運転手(43)が、運転中に内因性の病気でコントロールを失い対向車線にはみ出し、逆走状態で右側の縁石にぶつかりながら走行を続け、前から来た別の大型トラックと正面衝突した。
栃木県宇都宮市では先月13日朝、新国道4号で中型トラックが信号待ちの車列に突っ込む事故が発生。運転手(52)は、運転中に病気で失神したとみられる。
さらに、大分県臼杵市では今月12日、軽乗用車と大型トラックが正面衝突。軽乗用車を運転していた62歳の女性は、運転中に発病して対向車線にはみ出して事故を起こしたという。
3件とも事故のキッカケは運転中の病気で、発病したドライバー3人はいずれも搬送先の病院で死亡。広島と宇都宮の2件では巻き添えとなった運転手も肋骨を折るなどの重傷を負った。
クルマは安全に運転すれば便利な乗り物だが、ちょっと使い方を誤ると凶器になる。失神をはじめ運転中の病気はシャレにならない。
「失神を起こす病気はいくつかあって、最も侮れないのは不整脈です。健康診断で行う一般的な心電図検査では必ずしも異常を検出できるわけではなく、見過ごされることが多い。痛みを含むのどや胸の不快感、ふらつき、めまい、動悸といった不整脈に結びつく症状を経験したことがあるドライバーは要注意なのです」
こう言うのは、東京都健康長寿医療センターの元副院長・桑島巌氏だ。
不整脈は、脈が速くなる「頻脈」、遅くなる「徐脈」、不規則な状態の「期外収縮」に分けられる。一般に、「頻脈」は1分間に100回以上で、「徐脈」は同50回以下。3回に1回、4回に1回といったように脈が時々飛ぶのは「期外収縮」とみられるという。
■侮れない不整脈の患者数は約100万人
厚労省の「患者調査」(2020年)によると不整脈の患者数は約96万2000人。不整脈は年齢が上がるほど有病率が上昇するだけに他人事ではない。では、不整脈を含めて失神を起こすような病気はどんなことに注意すればいいか。桑島氏に聞いた。
「脈は電気信号で制御されていて、“発電所”の役割をする部分の異常で電気不足に陥ると脈が遅くなって一時的に心臓が止まることがあります。数秒の心停止でふらつきを感じ、10秒以上だと失神で倒れることも珍しくありません。これは洞不全症候群と呼ばれる病気で、一時的な心停止状態のまま心不全で亡くなることはまれなのですが、仕事や日常生活の途中で倒れると大ケガをしたり、運転中だと大事故につながったりするため厄介です」
長年の運動や肉体労働などで生理的に脈が遅い人は治療の必要はない。そうではなく、洞不全症候群を起こしていると、ペースメーカーを埋め込んで脈を適正に保つことが不可欠だという。
逆に頻脈のひとつとして見逃せないのは心房細動だ。これについてはどうか。
「心房細動は文字通り、心臓の部屋の心房が細かく動く病気です。症状を挙げると、動悸やめまい、胸の痛み・不快感、失神となりますが、症状を自覚するのは全体の6割。4割は発症しても無自覚で見逃されやすいのです」
心房細動も年齢が上がるほど有病率が上昇。65歳以上は3~5%、80歳以上は10%程度が罹患しているともいわれる。長嶋茂雄・巨人軍終身名誉監督を半身マヒに陥れた脳梗塞の原因がこの病気だ。
「心房細動がある人は、ない人に比べて脳梗塞のリスクは約5倍で、死亡リスクは最大3.5倍に上ります。心臓への負担も増すため心不全にもなりやすい。心房細動は、心臓と脳という生きていく上でとても重要な部分の病気を引き起こすのですが、そこまで至らなくても、運転中の発症で失神すれば大事故に直結しますから、無自覚な人ほど注意してほしいと思います」
国交省は、トラックやタクシー、バスなどについて運転手の健康状態に絡んで発生した事故を調査(表)。13~19年に健康起因事故で死亡した運転者は327人で、その疾病の内訳は心臓疾患がダントツの53%(174人)で、大動脈瘤・解離14%(45人)、脳疾患12%(40人)と続いた。事故全体は1891人で、やはり心臓と脳の病気が目立ち、大動脈瘤・解離を含む3疾患で3割を超える。