震災打撃が突きつけた「トイレ」の盲点…仮設の種類&価格は? 家族4人の必要備蓄数は?
能登半島地震で壊滅的な打撃を受けた「上下水道」。全国から水道局職員が応援に来ているが、完全復旧には年単位の時間がかかる見込み。実は被災地の住民たちが一番頭を悩ますのが、水がないこと。断水なのにトイレの水を流してしまうと、便器から汚水があふれ出てくることもある。
■七尾市は通常通りの排水を控えるようにお願い
七尾市の上下水道課がこう注意喚起している。
「一部地域で蛇口から水が出ているところや井戸水等をご利用されている地域もありますが、通常通りに排水すると下水道管が詰まり、道路上のマンホールや各家庭の下水マス・トイレ等から下水があふれ出ることになります」(1月6日付)
下水が「あふれ出る」とはどういうことか?
戸建て住宅の場合、地中に埋められた排水管が破損するケースがある。それを知らずにトイレの水を流すと、たぷたぷになった汚物が便器からあふれそうになるのだ。2016年熊本地震の際は、宅地内の排水管が壊れてしまっていたため、下水道が復旧しているのに汚水が逆流してくる例があった。
一方、共同住宅になるともっと悲惨だ。マンションなどの住人は、震災後の備えとして浴槽に水をくみ置きしている人も多いだろう。備えあれば憂いなしで、それで顔を洗ったり歯を磨いたり。また、トイレを流すこともできる──これが大きな間違い。上階の住人がトイレを流すと、その圧力で階下の部屋の便器から、し尿がドロドロとあふれ出してしまうのだ。
改めて七尾市上下水道課の職員に聞いてみた。
「今回の震災では排水管と下水管の両方の破損があり、『トイレが流れない』という報告が今もあります。汚水であふれたため、市役所本館でも一部で使用できない水洗トイレがありました」
現在は徐々に復旧してきているというが、七尾市ではトイレ使用の際は紙は流さず別に捨て、できるだけ少量の水で流すように呼びかけている。
ただ、臭い、汚いばかりはどうしようもない。もし避難所のトイレが便であふれそうになっていても、尿意や便意が我慢できなければその上にするしかない。場合によっては足元に漏れ出すこともあり、衛生面の問題も出てくる。
■仮設トイレの種類とおおよその価格は?
そんな時に頼りになるのが仮設トイレ。現在、能登半島地震では約900基の仮設トイレが稼働している。大阪市に本社がある仮設トイレ製造会社「BSK」は1月3日に政府の要請があり、10基ほどの仮設トイレを珠洲市と輪島市に届けている。ただし、これが大変な道のりだったようだ。
「政府の要請があり、すぐに運搬トラックに仮設トイレを積んで社員が能登の救急病院などに向かいました。ところが途中で割れた道路にタイヤを取られ、思わぬパンク。携帯電話もつながらず、道路は大渋滞。車中で夜を明かし、それでも何とか仮設トイレを届けることができました」(BSK担当者)
こういった民間の人たちの苦労と活躍を忘れてはならない。もちろん、横浜市や遠く北海道旭川市からも水道局の職員が応援に来て復旧作業にあたっている。
では、仮設トイレにはどんな種類があり、値段はどうなっているのか。
「仮設トイレといっても、くみ取り式の簡易水洗タイプ、下水栓に配管するタイプ、そしてバイオトイレ(電源が必要)の3つがあります。簡易水洗タイプは1回で300㏄の水が流れます。少ないように思うかもしれませんが、これで十分な設計になっています。くみ取り式は目視で量を見てもらい、いっぱいになったらバキュームする必要が出てきます。価格は和式のボットンタイプが20万円くらいから。最近は手洗い付きタイプや抗菌加工を施した仮設トイレもございます」(前出のBSK担当者)
ちなみに、同社の「簡易水洗式タンク一体型洋式トイレ」の価格は税込み60万円ほど。仮設トイレは10年は繰り返し使用することができ、平時においてはマラソン大会や夏祭りでも活用できる。話題のトイレトレーラーは1台2500万円ほどとされる。