(21)「尊敬してくれ」などとは申しませんが…悪ふざけや無理難題はご勘弁を!
「職業に貴賤なし」という。その通りだと思う。だが、家業の倒産を機に50歳を過ぎてやむにやまれずタクシードライバーの道を選ばざるを得なかった身としては、正直なところ胸を張って「タクシードライバーです」とは言えない。もちろん卑しい職業などとは決して思わないが……。実際のところ、専務として家業を手伝っていた頃は何度もお客としてタクシーを利用したが、「大変な仕事だな」と感じたことはあっても「なりたいな」などと思ったことは一度もなかった。
いまは、タクシー会社の乗務員教育が徹底しており、ドライバーの接客態度も向上しているが、私が30代、40代の頃は、あまりお近づきになりたくないタクシードライバーもずいぶんいた。お客をお客とも思わず、文字通り「無礼」なドライバーも多かったし、下手をすると身の危険を感じてしまうようなドライバーもいた。
そんな時代の名残なのかもしれないが、「雲助」「運ちゃん」の言葉に象徴されるように、タクシードライバーに対して横柄な態度を取ったり、侮蔑的な言葉を吐いたりするお客はいまでもいる。