(21)「尊敬してくれ」などとは申しませんが…悪ふざけや無理難題はご勘弁を!

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「えーと、申しわけありません。どう見ても5人様に見えるのですが……」

 相手は酔客。私はあまり刺激しないようにソフトな言葉で言った。すると後部席に乗っていた男性の一人が「運転手さん、固いこと言わない、すぐ近くなんだから」と無理な注文をしてきた。私のタクシーは私を含めて5人乗り。明らかに定員オーバー。私はドアを開けたまま「道路交通法違反で1点減点、反則金も発生する」旨を告げた。

 すると、酒の勢いなのだろう。同じ男性が「1人多いなら、おまえが降りろ」とすごんできた。一瞬、不穏な空気が漂ったが、5人目に乗り込もうとしていた女性が助け舟を出してくれた。

「調子に乗って無理なこと言ってごめんなさい。運転手さんにとっては死活問題ですものね」

 この女性、見れば驚くほどの美人だったのだが、この言葉に従うように男たち全員がおとなしく降りて行った。もし言われるままにクルマを走らせて、警察官に見つかったら大ごとになっていたし、もしそれで事故でも起こしたら、私は間違いなくクビになっていただろう。

「お客さま、タクシードライバーを尊敬してくれなどとは申しません。ただ、私たちも生きるためにハンドルを握っているのです。そこのところ、よろしく」

 私はそうお願いしたい気持ちだった。

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