大塚で昭和25年創業「富久晴」の3代目 「じいちゃんが、もつ焼き以外なるべく余計なことはするなって」
またまた、昔の名画座の話で恐縮ですが、大塚には大塚名画座とその地下に鈴本キネマという小屋があった。
紅顔の映画少年だったアタシははるばる山手線を半周してよく見に来たものだった。強烈に覚えているのは「サブウェイ・パニック」。もう一本は忘れてしまったが、とにかくこの映画が死ぬほど面白かった。お暇なときにご覧ください。絶対損はさせません。
大塚で降りるのはそれ以来かもしれない。その名画座もすでに閉館して久しい。今日はマニアが集うシネマハウス大塚のイベントをのぞくことが本来の目的だったが、早めに来てあたりを散策していると、当たり前だが映画少年時代は気付かなかったいい酒場が多いことに驚いた。昔は花街としても栄えたそうで、確かにそれをにおわせる雰囲気が漂っている。
かと思えば、エスニックな食材が置いてあるスーパーや飲食店も。パキスタンやネパールあたりからの移住者も多いようだ。ちょいとエキゾチックな商店街を抜けると都営荒川線の線路にぶつかる。荒川線に乗って各駅停車昭和酒場の旅なんて面白そう。
さて、イベント終了後アタシが向かったのは昭和25年創業のもつ焼き屋「富久晴」。涼しげな植木にはさまれた縄のれんから中をのぞくと変形コの字カウンターはまだ空席がある。縄のれんをくぐり「ひとりだけど」。「どうぞこちらへ」。笑顔で迎えてくれたのは3代目の青木武さんと時男さんのご兄弟。カウンターだけのこぢんまりとした店内は、常連らしい中高年男性で8割ほど埋まっている。地元の常連が多いカウンターだけの店には一見では入りづらい雰囲気があるが、青木さんご兄弟の親切で気さくな対応がこちらの気持ちを和らげてくれる。意外と少ないのよ、こういう行き届いた接客って。感心しつつも飴色にいぶされた店内と年季の入ったカウンターに目が行く。なるほど歴史を感じるね。