上野通いを再開 昭和25年創業の老舗「動坂食堂」(千駄木)には1日に2度来るお客もいる
第64回 千駄木(文京区)①
広島から帰ってきて早速、上野通いを再開した。
正しくは上野ではなく不忍通り通いというべきだろう。不忍池を右手に見て護国寺方面への散策はことのほか楽しい。だが、つい飲み屋街があると寄り道してしまう性分は困ったもの。何しろ不忍池を通る前から、上野中通りに潜り込んでしまったほど(苦笑)。でもね、計画にない行動の方が楽しいことが多い。それが還暦世代のいいところでもある。そんな街に迷い込んで、今夜はこの店をのぞいてみようか、などと思いを巡らすのもいい。
不忍通りに戻り、池之端を過ぎたあたりから街の雰囲気が変わってくる。通称「谷根千」。が、谷中、根津、千駄木をひとくくりにはできない。それぞれ全く違った歴史と味わいがある。この辺から裏道をてくてくブラつきながら団子坂下まで来ると、おしゃれな店が増えていることに気付く。そして外国人観光客の多さに驚く。不忍通りをさらに進むと、動坂下交差点。その右手前に「動坂食堂」と大書された看板が見えてくる。ここが今回の目的の店だ。
昭和25年創業、田端住民を中心に老若男女の食欲を満たして間もなく75年の老舗。前回の広島が深夜食堂なら、今回は真っ昼間食堂というわけで、10時半から夜の8時半まで休憩なしの通し営業。アタシはすいていそうな午後3時過ぎに潜り込んだ。
大ぶりのカキフライで生ビールをグビ~!
4人掛けテーブルが10席ほどの広々とした店内では5、6組の客が食事を楽しんでいる。ビールを飲んでいる客もチラホラ。ならばアタシもというわけで、まずは中ナマ(630円)。ツマミは里芋の煮物(400円)。地元の大先輩らしき御仁はマグロの刺し身で冷酒(530円)をやっている。いいね。食堂の日本酒といえば、一合の瓶入りかワンカップが定番。手間がかからないからね。
大ぶりでモチモチの里芋をほおばり、それを生ビールで胃に流し込みながら周囲を見渡すと、黄色い短冊がズラリ。そこには垂涎の定食メニューのほかに、酒のアテにもってこいの品も並んでいる。中でも目を引いたのが自家製塩辛(500円)だ。でも、これをやると白鶴のワンカップに突入して、キリがなくなるからメインのおかずを頼むことに。
若い学生風の客がかぶりついているのは大きなアジフライ。連れはエビフライが2本のった人気のミックスフライか。こっちの作業着のおじさんたちは焼き鯖と肉野菜炒め。井之頭五郎状態に陥ったアタシが選んだのは、季節もののカキフライ定食(1300円=写真)だ! これで生ビールをもう一発! 大ぶりのカキフライに自家製タルタルソースをどっぷりつけてガブリ。そこへ生ビールをグビ~。サイコ~。でも、いつも思うのだが、こういう食堂はどうせなら2、3人で来て、いろんなものを食べてみたいネ。
ところでこの時間は常連さんが多いよう。切り盛りしているお姉さんと言葉を交わして楽しそうに飲み食いしてる。「7、8割が地元の常連さん。あとは他から見えるお客さんですね」。今度はここで11時ごろに飯を食って、また夜、飲みに来ようかな。「いますよ。1日に2回来るお客さん」。だろうね。この店なら朝昼晩3回来られますよ。
(藤井優)
○動坂食堂 文京区千駄木4-13-6