著者のコラム一覧
権藤博野球評論家

1938年12月2日、佐賀県鳥栖市生まれ。鳥栖高からブリヂストンタイヤを経て61年に中日入り。1年目に35勝19敗、防御率1.70という驚異的な成績を挙げ、最多勝や沢村賞などタイトルを総ナメに。連投に連投を重ねる姿に「権藤、権藤、雨、権藤」の流行語が生まれた。68年に現役引退後は各球団の投手コーチを歴任。横浜で初の監督に就任した98年にはいきなりペナントを制し、38年ぶりの日本一に導いた。

菅野の準決勝“圧巻投球”はスライダーを捨てたからこそ

公開日: 更新日:

 米国出発前、菅野と捕手の小林(27=巨人)を呼んだ。

「取り返すチャンスがきたな。米国戦では攻め方を変えるぞ。真っすぐを主体に緩い球との緩急。内にもどんどんいく。スライダーには頼るな!」

 豪州戦でもキューバ戦でも、菅野と小林のバッテリーは外角中心の組み立てだった。いきおいスライダーの比率も高くなったが、甘く入ると長打になるスライダーはもろ刃の剣。それが分かっていながら、この球種に頼る日本人投手が多いのには理由がある。

 スライダーはバッテリーに安心感を与えてしまうのだ。変化球の中では最もコントロールがしやすい球種で、ここで真っすぐは怖いなと思う場面、ちょっと曲げとこうと安易に選択しがちなのである。

 迎えた米国戦。菅野の投球は圧巻だった。年俸総額100億円超の強力米国打線を相手に、臆せず真っすぐで押した。6回3安打1失点(自責ゼロ)。最速153キロだった直球を内角、そして高めに投げ、6三振を奪った。スライダーに頼ることなく、力で打者をねじ伏せた。

「この投球が今季、おまえが目指すべき方向だ」

 降板後、菅野には改めてそう伝えた。

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