F・トーレスはなぜ鳥栖を選んだのか 自伝の著者が明かす
2018年シーズンのJリーグは「スペイン元年だった」と言ってもいいだろう。5月に元スペイン代表MFイニエスタ(34)が神戸入りを発表したと思ったら、2カ月後の同年7月には元スペイン代表FWトーレス(35)の鳥栖入りが発表され、世界をアッと驚かせた。W杯と欧州選手権を計3回制した大物ストライカーが、極東の地でプレーすることを選んだ理由は? Jリーグで何を思い、何に共感し、どんなことに違和感を覚えているのか? 自伝「フェルナンド・トーレス これまでの道、これからの夢」の構成・訳を担当したスポーツジャーナリストの竹澤哲氏に聞いた。
■アトレティコと環境が似ている
――トーレスほどの実績を持っている選手が、いくら年齢的に全盛期を過ぎたとはいえ、Jリーグにやってくることに対して、意外な感じは否めなかった。
「彼は07年から14年まで英プレミアのリバプールとチェルシーでプレーしています。英語も話せますし、スペイン1部のアトレティコ・マドリードを17―18年シーズン限りに退団することが発表された際、米国プロリーグMLS入りも取りざたされました。あえて日本を選んだ理由に、<未知の国で挑戦したい>という思いがあったようです。さらには、愛する子供たち(1男2女)の成長のために日本が適しているのでは、という判断も働いたと思います」
――地方クラブのひとつに過ぎない鳥栖を選んだことにも驚かされた。
「本書でトーレス自身も語っていますが、彼が10歳のときに入団したアトレティコ・マドリードというのは、スペインでレアル・マドリードとバルセロナなどビッグクラブに<恐れずに堂々と立ち向かっていく>クラブでした。Jリーグで鳥栖よりも大きな予算を持ったクラブと戦うことは、これまでアトレティコでプレーしてきた環境とよく似ていると思った――と彼は話していました」
――トーレスは、サッカーしか知らないアスリートでもなければ、アイドル的なイケメンでもなく、非常に理知的な印象を受ける。
「15年にアトレティコが来日して鳥栖と対戦した際、10分だけ彼をインタビューする機会に恵まれました。たった10分の間で彼は理路整然と話を進めてくれ、非常に有意義な取材になりました。この本は、まずインタビューしたものをスペイン語にまとめ、それをトーレスに読んでもらって言葉足らずだった部分を自ら書き足し、誤解を招きかねないような部分を自らが訂正し、それを日本語に訳して自伝として構成したものです。非常に頭が良く、きちんとしつけられた好青年。それがトーレスの人物像です」