陸上男子100m&400mリレー「五輪決勝進出」の確率とポイントを徹底解説!

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 25日に行われた陸上の日本選手権、男子100メートル決勝は、多田修平(25)が10秒15をマークして優勝した。9秒95の日本記録を持つ山県亮太(29)が3位に入った。2人は五輪参加標準記録を突破しているため、五輪出場が内定した。

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 2016年リオ五輪は400メートルリレーで日本は銀メダルを獲得。その後に、100メートルを9秒台で走るスプリンターが4人誕生した。花形の男子100メートルで、日本人選手は1932年ロサンゼルス大会の吉岡隆徳以来、89年ぶりに五輪の決勝の舞台に進出できるか。2人の走りにはどんな特徴があるのか。400メートルリレーは金メダルを狙えるか。著書に「100メートルで、日本人選手は1932年ロサンゼ〈10秒00の壁〉を破れ! 陸上男子100mルス大会の吉岡隆徳以来、89年 若きアスリートたちの挑戦(世の中への扉)」(講談社)があるライターの高野祐太氏が可能性を探った。

  ◇  ◇  ◇

 東京五輪で100メートル決勝に残ることは、大まかには、その時点で世界で一番速い8人の男に入ったということになるので、「極めて難しい偉業」というのが大前提。日本の男子短距離陣について、そんな目標が達成できるのかどうかが話題になっていること自体が進化を物語っている。そして、この2人にはその可能性が出てきている、という表現が的確だ。

■カギは「力の発揮力」

 過去の五輪、世界選手権で決勝に進出した最も遅い準決勝のタイムは、15年の北京世界選手権の9秒99で、一度9秒台に突入した。それを指標とすると、山県は9秒台の実績があってクリアしており、多田は指標の寸前にいることになる。勝負強さを発揮して国内と同じレベルのパフォーマンスができれば、決勝は見えてくる。「力の発揮力」がカギになる。

 ただし、9秒台の自己ベストを持つことと、五輪の準決勝を9秒台で走ることは別の話。予選を確実に勝ち上がって想像以上に疲労がたまっていること。風の状況にかかわらずに出せる安定性が求められること。普通のレースとは比べ物にならないプレッシャーがかかる状況であること。これらの条件下で9秒台か同等の水準の走りを実現することは容易ではない。

 気になる材料を挙げるなら、山県が9秒台を出したのは1回だけ。多田は0回ということだ。五輪の舞台は特別な空間。「世界で一番足の速い男」の称号を手に入れるために色めく強者たちとの激闘を勝ち残らなければならないプレッシャーの中、走りが乱されないことは想像以上に難しい。結論は「いばらの道だが、可能性はある」という表現になる。

多田修平のピークは夏

 強靱なバネを持ち、スタートからの強烈な加速を一番の武器とする。一方で、そのせっかくのバネが前方ではなく上方に抜けてしまうのが課題だった。

 だが、今季はその課題克服の成果が見られるようになっている。推進力が前に向かう走りになりつつあり、レース後半に失速することがなくなってきた。その走りが端的に表れたのが今月6日の布勢スプリントだ。9秒95を出した山県に終盤も付いて行き9秒台目前の10秒01に達した。日本選手権も自分のレースで初優勝。加速がスムーズで、かつ後半にリラックスして伸びていた。大卒後に長期的な計画に基づくトレーニングを重ねてきた。その成果が今季は実を結びつつあり、ピークは夏に取ってある。

■減速しない山県亮太

 ロンドン五輪の予選で10秒07、リオ五輪の準決勝で10秒05と連続で日本人五輪最高の自己記録をマーク。度重なるケガに苦しみながら、五輪イヤーにピークを合わせ、本番でも力を出し切ってきた。その勝負強さと経験値が最大の強みだ。

 上体の上下動が少なく、滑らかに進む。向かい風でも追い風でも対応できる安定感も秀逸だ。スタートが得意な前半型とも言えるが、後半も力まずに減速の少ない走りができる。今季はその特徴がさらに際立つようになっており、「9秒95」に結び付いた。日本選手権は伸びを欠き、その疲れが残っていたのかもしれない。

400mリレー「金メダルの確率40%」

 リオ五輪で銀メダルの快挙を達成して帰国した選手たちは、多くの取材で口々に「次は金メダルを目指す。そのためにも個人の走力アップが必要。9秒台のメンバーが複数いるチームになれるように練習に励みたい」と語っていた。

■9秒台0人で銀のリオから4人に

 あれから5年。まさしくその通りの状況が生まれている。現在は9秒台が4人。9秒台が1人もいなかったリオ五輪から大きな飛躍を遂げている。伝統的な強みであるバトンのパスワークに加え、この戦力アップが夢の金メダル獲得のための大きな前進であることは間違いない。

 世界記録は12年ロンドン五輪でウサイン・ボルト氏率いるジャマイカが出した36秒84だが、17年にボルト氏の引退があり、現状では東京五輪の優勝タイムがこの記録を上回るとは考えにくい。一方、日本の躍進に刺激され、近年は世界の強豪国が日本に負けじとバトンのパスワークの技術向上に取り組んでいるといわれている。最近の世界大会の優勝記録も16年リオ五輪37秒27(ジャマイカ)、17年世界選手権37秒47(英国)、19年世界選手権37秒10(米国)と、36秒84ほどではなくても高水準で推移している。東京五輪でも37秒台の前半から36秒台に迫るタイムになる可能性がある。 

 リオ五輪の決勝での日本チームの100メートルのシーズンベストの合計から決勝タイム(37秒60)への短縮幅は「2秒97」だった。それをそのまま今季に当てはめてみる。

 メンバー入りの可能性がある選手の今季ベストは、山県が9秒95、多田が10秒01、サニブラウンが10秒25、桐生が10秒12。合計すると40秒33。そこから2秒97を引くと37秒36。37秒前半、条件がそろえば36秒台に迫るタイムの可能性がありそうだ。

 サニブラウンと小池は男子200メートルでも参加標準記録を突破しており、2人が200メートル代表として400メートルリレーに起用される可能性もある。特にサニブラウンの爆発力は金メダルのためには決定的に必要な戦力だ。

■強みはパトンパスの膨大なデータ

 コロナ禍で武器であるバトン練習が不足しているのは不安要素だが、日本には過去のバトンパスに関する膨大なデータの積み重ねがあるのは強い。練習不足を十分に補うだけの強みになる。バトンの渡し手と受け手の持ちタイムなどと付き合わせる形で、渡し手が何メートル手前まで来た時に受け手がスタートを切るのが最も有効かというデータがはじき出せるため、バトンパスのタイミングを合わせる練習が必要最小限でも済むからだ。

 経験もある。山県は12年ロンドン五輪、16年リオ五輪で第1走者を任された。多田は17年、19年世界選手権で1走を走って銅メダル、サニブラウンは19年世界選手権のアンカーで銅メダルに貢献した。桐生は16年リオ五輪、17年、19年世界選手権でメダル獲得をリードした。小池以外が世界大会のメダリストだ。

 結論は「可能性はある」。「金メダルの可能性がある」と言えるのはすごいことだ。パーセンテージで言うと、コロナ禍で各国の状況が不透明なため、過去の傾向のみを参考にすること、桐生とサニブラウンが万全の状態に仕上がっていることを条件に、期待値も込めて「40%」としたい。 

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